BRIEFING.133(2007.03.22)

選択される意見と判断

不動産鑑定士には、次の2つの立場があること(BRIEFING.51参照)を以前述べた。

@監査人的立場
A代理人的立場(不動産鑑定評価基準上は認められないと解される)

継続賃料の増減額請求に係る裁判等で、知識のない当事者に代わって、適正な範囲内で精一杯の主張をしてやるのはAの立場である。

これは弁護士や税理士が、代理人として本人の利益になるよう主張するのと類似する。

裁判所の依頼で行う継続賃料の評価や、公共用地の取得・売払いに伴う評価は、@の立場である。公平中立でなければならない。

これは公認会計士が会計監査人として意見表明する場合と類似する。会計監査人が会社や取締役の代理人になってしまっては、株主や債権者に対する背信である。

しかし、@の立場で公平中立の立場を保持したとしても、不動産鑑定士の鑑定評価額には、人による若干の差異が生ずることが知られている。

同一の情報、同一の知識をもってしても、である。鑑定評価が評価主体の「意見であり判断である」限りやむを得ぬことなのであろう。

不動産の証券化に伴う評価は@の立場である。しかし、依頼者は高めの評価額をが喜びがちである。そして、複数の不動産鑑定士がそれぞれに真の意見・判断を表明した場合、依頼者はその中から好都合の意見・判断(またはそれをする不動産鑑定士)を選択するであろう。

容認されている「若干の差異」の範囲で「好都合の意見・判断」を選択することは責められない。

そこで、不動産鑑定評価書を見る時、その不動産の利害関係者は、その不動産鑑定士を選択する権利が誰にあったかを念頭に置き「若干の差異」を見極めなければならない。

そしてその「差異」が「若干」かどうかの検証は、今後に委ねなければならない。


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