BRIEFING.138(2007.05.10)

「持たざる経営」の軌道修正?

「含み」による資産形成といった企業経営の手法の一つは、バブル崩壊の後、「持たざる経営」へと変化し、ROA(総資産利益率)やROE(株主資本利益率)が重視される社会となってきた。

不動産業においては、土地を取得してから時間をかけて開発を進めたり、開発後も所有し続けたりすることは資産価格の変動リスクをかかえこむことになり、古い経営体質とされる。今では取得した土地を手早くマンション等に加工して分譲、またはビルを建ててテナントを入れてSPCに売却して証券化、というのが新しいタイプの経営と言ってよいだろう。

しかし、ここへ来て若干軌道修正の兆しがある。

用地を取得したマンションデベロッパーは、値上がりを待って開発を急がなくなってきた。また、東京ミッドタウンの中心的デベロッパーは、今後も不動産の持ち分を所有し続けると言う。

確かに、値上がりの見込める物を早々に売却する必要はなく(BRIEFING.049050参照)、妥当な判断だろう。

東京ミッドタウンのデベロッパーが防衛庁跡地であった用地を入札で取得したのは2001年。今となっては地価の底と分かるが、当時誰がそれを知り得たであろうか。当コラムの「不動産に関するキーワード番付2001」(BRIEFING.017参照)でも取り上げたニュースだった。

デフレが予測される時には、物を手放して現金を持って(または借金をなくして)おくべきであった。インフレが予測される時には、現金を減らして(または借金を増やして)物を持っておくべきである。

したがって、今頃になって本社ビルを証券化し、リースバックした企業は、その逆を行っていることになる。せめてこっそりと買戻し特約でもを付けておれば・・・。

誰も買手のなかった土地に「売りませんか」という話も出てきた。「売ってもらえませんかねえ」と人相の悪い男が訪ねてくる日も近い。タイムマシンに乗らなくても、バブルはすぐそこまでやって来ているかも知れない。


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