BRIEFING.144(2007.07.09)

減価修正における残存価格

不動産鑑定評価における不動産の積算価格は、価格時点における対象不動産の再調達原価(BRIEFING.039079参照)に減価修正を行って求められる。

簡単に言うと、今、対象不動産と同じ土地を取得し、同じ建物を建てるのにはいくらかかるか、そして、使用や時の経過等の物理的・機能的・経済的要因によって生じた減価額を、そこから控除すること(減価修正)により求められる。

そして、通常、土地は減価しない(BRIEFING.111参照)が、建物は通常の維持管理・修繕等を行っていたとしても減価すると考えられるから、一定の時期には必ず土地値(または土地値+残存価格)に還るという、近年の収益価格に欠落しがちな視点(BRIEFING.092参照)を持つ価格である。

その減価のスピードは、建物の品質は勿論のこと、建物の使用方法、建物への投資の程度等に大きく左右され、さらに地域の変遷、一般社会の変化等からも影響を受けるだろう。

不動産鑑定評価では、建物の「経済的残存耐用年数」と「経過年数」、及びその合計である「経済的耐用年数」を基礎として定額法または定率法等を用い、さらに建物を「観察」することにより直接、減価額を査定する。経済的耐用年経過後の価格、残存価格を見るか否かは現実に即しての判断となる。

ところで、平成19年度の税制改正により、減価償却の扱いが大きく変更されている。それにより残存価額は廃止となり、法定耐用年数において取得価額を全額(備忘価額1円は残す)償却することが可能となった。

改正の趣旨は、企業の国際競争力の強化であり、より正しい価値の把握のためではないことは言うまでもない。では実際のところ、法定耐用年数を経過した資産の価値、中でも建物の価値はどうなのであろうか(BRIEFING.056057参照)。

現実には、戦前の建物が今なお新築同様の効用を生み、まださらに何十年間も同様の効用を生み続けるであろう場合もあれば、一戸建住宅が、築後20年程度で土地値、あるいは土地値マイナス取壊し費用、になってしまうということも珍しくない。

不動産鑑定評価では、残存価格を個々の不動産の実情に即して判断するとは言うものの、実に困難な作業と言わねばならない。


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