BRIEFING.167(2008.06.04)
返還されない一時金は消費者の利益を害するか?
賃貸マンションの「定額補修分担金」の是非が争われた訴訟で、4月30日、消費者契約法に違反しこれを無効、とする判決が京都地裁であった。
「定額補修分担金」は一般にはあまり聞かないが、建物賃借人が払う返還されない一時金であり、賃借人の故意・重過失によるものを除く損傷の補修に当てるための一時金のようである。
したがって、通常使用に係る損耗の原状回復に充当する趣旨の一般的な権利金・礼金・敷引き等とは若干趣が異なる。
京都地裁は、これを消費者の利益を一方的に害し、消費者契約法10条に該当するから無効とした。この結論は、本件のような「定額補修・・・」だけでなく、一般的な権利金等についても同様と思われる(BRIEFING.065、066参照)。
しかし、本当に権利金等が消費者の利益を一方的に害するのであろうか。
思うに、本件で保護される「消費者」は、次の@のみであり、Aを忘れてしまっているのではないか。
@すでに権利金等を支払った賃借人
Aこれから賃借人になろうとする人
@の人は普通、権利金等が返還されないことを了解の上、賃貸借契約を締結しているのであり(でなければ話は別だが)期待していなかった利益を保護する必要はない。
本件の賃料は、権利金等がある分、ない場合と比べて若干安くなっていたはず(でないと市場で淘汰される)であるから、後になって権利金等を返せでは、不合理である。不満があるなら契約の時に交渉してみるか(言い値で契約する必要は全くない)、他の物件を捜すかすべきであった。
むしろ保護すべきはAの人ではないか。権利金等と賃料との様々な組み合わせの中から、自分にとって適当な条件の物件を選択するという権利を保護すべきである。
特に、長期間住むつもりの人にとっては権利金あり(賃料安目)の方が権利金なし(賃料高目)より得である(BRIEFING.096参照)。
かつて借地権者保護が、既存借地権者の保護にはなったものの、土地の賃貸借市場を壊滅させ、新たに借地権者になろうとする者の権利を害してしまったことを忘れてはならない。
控訴審を見守りたい。