BRIEFING.168(2007.06.16)

取引価格と特殊な事情

不動産の価格を求める手法の1つに取引事例比較法がある。

この取引事例比較法の適用に際し、取引事例が特殊な事情を含み、これが当該事例に係る取引価格に影響していると認められるときは、適正な補正を行わなければならない。

特殊な事情とは、極端な供給不足だった、関連会社救済のためだった、買手が知識不足だった、不動産の対価以外のものが含まれていた、といった場合であり、取引価格は正常な場合に比べ高くなる。

また、売手が知識不足だった、売手が急いでいた、贈与分も含まれていた、競売等で情報の開示が不十分だった、といった場合には安くなるだろう。

しかし、これらの事情の存在は、いくらその不動産の外観を調査しても判明しないのが普通である。また仮に判明したとしても、その取引価格に対する影響の程度を測定することは極めて困難である。

実務上、冒頭で述べた「適正な補正」は、これくらいであるはずだという推定価格から逆算してその補正率を査定してしまうこともあるが、先入観が介入してしまうため、このような根拠のない補正は慎まなければならない。

また、買主が「急いでいたので1割程高く買った」と認識していたとしても1割の補正が適当とは言えない。もし1割安ければ売主は売却せず、他の買主を捜していたかもしれない。その価格だから売主は売ったと考えるべきである。

ところで、取引に当たり、特殊というほどではなくとも、当事者には様々な事情があるのが普通である。そしてその程度は大小様々である。

とすれば、これらをすべて事実として等しく扱い、平均することによってこそ、真理に近づくことができるのではないだろうか。

確かに、異常値は排除すべきかもしれない。ただ、どこからが異常か線引きが必要となる。

しかし正規分布を描くほど類似の取引事例があるわけもなく、異常かどうかを判定するためには「正常」をはっきりさせなければならない。だが、これから「正常」を求めようとしているのに、「正常」をはっきりさせることができようはずもない。

地価水準の大きな変動の直前には、その端緒となる取引が散見されていたはずである。それを安易に異常値として排除し、または補正してしまうことがあってはならない。


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