BRIEFING.173(2008.08.07)

継続賃料評価において重視すべき時点

継続賃料とは、不動産の賃貸借等の継続に係る特定の当事者間において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料を言う。

特定の当事者間において成立するものであるから、客観的には見えにくく、極めて個別性の高いものである。そして市場で成立するものは、間接的にしか影響を及ぼさない。

継続賃料を求める際に重視されるのは、従前賃料(現行賃料)である。但し自動増額特約によって変更された賃料は、その時の新たな合意による賃料ではない。したがって重視すべきは、協議して新たに定めた賃料で、正確には「最終合意賃料」と呼ばれるものである。

これについては、BRIEFING.034035036「自動増額特約のある場合の最終合意時点」で論点提起したが、最近の最高裁判決(平成20年2月29日・原審差戻し)もこの立場をとった妥当なものと理解される。

では、協議なくして自動更新された場合は最終合意と言えるか。一応協議はしたものの一方的に決まってしまった場合はどうか、十分に協議したものの双方不満を残したまま決まった場合はどうか。現実にはこのよなケースが大部分であろう。

これについてはBRIEFING.069「継続賃料評価における最終合意の温度差」で述べた通り、双方が自由に契約関係から抜け出すことのできない立場における合意は慎重に扱うべきと考える。

この点、前述の判決は、若干踏込み不足の感があるが、賃借人の減額申入れを賃貸人が一応の協議で退けたことを、最終合意と見なかった点で、評価することができる。

実際、異常に高いまたは安い水準の賃料(特に後者)に出くわすことは珍しくない。これがどのように生じてきたかは想像に難くないし、その過程(多くの調停・判決もその一翼を担った)が信義・誠実に合致するとは考えられない。

とすれば、双方が自由な立場で合意された賃料、すなわち当初の賃料を最も重視すべきである。そしてその時点を最終合意時点として利回り法、スライド法を適用すれば、当時の時勢下におけるその賃料(経済価値と言ってもよい)が、今に蘇ることになる。


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