BRIEFING.018(2002.01.10)

柿葺きとはどんな屋根か

都心の繁華街に残された古い木造建物の登記簿の表題部に「柿葺き」との記載を見つけた。「カキ葺き」とは何だ。どんな屋根なのか。そういえば、新築された舞台のお披露目公演を「柿(こけら)落とし」と言うではないか。そう、「柿葺き」はカキ葺きではなく、こけら葺きであったのだ。

さて、柿落としの柿は材木の削りかすや木片のようなもの(木屑とも書く)をいうようであるが、柿葺きの柿は杉・さわら・檜などの薄い削り板(こけら板という)である。檜皮葺き等、樹皮ならともかく、薄い削り板に防水性はあるのだろうか。

調べてみたところ、犬山市の茶室・如庵、大山崎町の茶室・待庵(以上国宝)、玉村町の玉村八幡宮、京都市の龍安寺、同じく京都市の冷泉家住宅、豊橋市の東観音寺多宝塔、彦根市の彦根城馬屋(以上重文)、などが柿葺きであった。

先日、これらの内のひとつ、京都市南禅寺の「方丈」を訪ねた。柿葺きの屋根は数重に板を重ねて葺かれており、遠目ながらその断面を見ることもできる。平らであるはずの板で、なぜか微妙な曲線も作り出している。夕日に当たると金色のようにも見えた。

これらの高級な建物の屋根に柿葺きが用いられる一方、もともとは身分の低い芸人の粗末な小屋の屋根に用いられたものだったとの説もある。なるほど前述の彦根城の馬屋は粗末であったはずだ。柿落としという言葉も芸人と関連する。また、もともとこけらの字は、カキとは別の字であったが、カキに似た字であったため、カキと書くようになったという説もある。

これらの技術の保存を目的とした(社)全国社寺等屋根工事技術保存協会という団体もあり、(株)日本屋根経済新聞社(東京都千代田区)からは柿葺き等の技術を記録したビデオも発売されているというから奥が深い。

なお、繁華街にあったこの建物、すでに葺き替えられ、若者向けの店舗として改装され、すっかり街にとけ込んでいた。


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