BRIEFING.190(2009.02.16)

「かんぽの宿」一括譲渡価格の評価上の論点(1)

日本郵政の「かんぽの宿」一括譲渡に係る入札について、様々な疑惑が報道されている。ここでは、その価格を評価する上での2つの論点について述べる。

1つ目は営業赤字の施設の不動産としての適正な価格をどう把握するかという問題である。

リーマン・ショック以降、ホテル、ゴルフ場、ショッピングセンター等、赤字に転じた施設は多いと思われる。しかしそれ以前から恒常的に赤字の施設もある。「かんぽの宿」の多くがその例である。

それらのうち、経営が特に劣っているというものは別として、通常の経営努力で赤字であるのなら、その原因は施設の立地、あるいは施設と立地の相性の問題と考えるべきである。

そうするとその施設に係る不動産の価格は0と考えられる(売却すれば雇用は切り離せるのでその点のマイナスはないのが普通と考えられる)。

しかし、類似地域の類似の用地を取得し、類似の建物を建てたとすれば、その合計費用は相当の金額となり、それに建物の経年劣化を考慮したとしても0円とはならない。最小でも土地代、または土地代マイナス建物解体撤去費用と考えてもよいはずである。

とすると、収益面から見ると0、費用面から見ると土地代程度となる。

ところがこの両者を結びつけるはずの市場面からのアプローチがなかなか難しい。

類似地域に類似の施設の取引はほとんどなく、あってもその価格はつかめず、不動産としての個別性が高く、売買の条件も事情も様々である場合が多かろう。これでは相場も形成されない。

一時、ゴルフ場(18ホール)が1〜10億円などと言われたが“相場”とまでは言い難い。

このような場合、類似地域において類似の施設の供給(新築)が行われているか否かに注目する必要がある(BRIEFING.079参照)。

たとえば、現に類似地域で用地を取得し、類似の建物が建てられている、または計画されている、という場合、費用面からのアプローチは収益性に優るとも劣らぬ重要性を持つ。

一戸建住宅がその例で、収益面から見るともっと安いはずなのに、常に似たような住宅地で似たような住宅を建てる人が絶えない。この場合、収益性は無視してもよいほどである。

しかし誰もそんなことを企てない状況下において、費用面からのアプローチには意味がないのである。


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