BRIEFING.200(2009.06.04)

正常価格ではついてゆけない

オフィスビル市場に不安がなかった頃、不動産投資法人の資産運用受託会社の一番の悩みは「不動産鑑定士がついてきてくれなくて・・・」というものだったと言う。思ったほど高い評価額を出してくれないという訳である。

「売主・買主(とはいっても関連会社のことが多い)は合意しているのに・・・」

「収益価格は何とかなりますが、積算価格がこうも離れてしまっては・・・」

というのが双方の言い分であろうか。

鑑定業界としても、資産の流動化に関する法律等に基づく不動産鑑定評価によって求める価格は投資採算価値を表す価格(正常価格ではなく、特定価格の一種)であるとし、ある程度は「ついてゆく」こととした。しかしどこまでも「ついてゆく」ことはなかったのである。

折しもオフィスビル市場が急緩和しつつある今、鑑定評価額を特定価格である投資採算価格としたこと、また「ついてゆく」のを“ある程度”に止めたことは卓見であったというべきである。

「ついてきてくれなくて・・・」という同様の悩みは、公共用地の買収担当者にもある。

公共用地は税金で取得するのであるから、適正な時価、即ち正常価格で買わなければならない。しかし任意で(収用ではなく)売る気のない人に正常価格で売ってもらえるはずもないことは論を待たない。たとえ事業の公共性を理解してもらえたとしてもである。

ならばこの際、正常価格とは違う特定価格の一種、たとえば受認買収価格といったものを明確に打ち出してはどうか。

公共性に基づき売主が受認すべき価格である。正常価格よりは若干高くなろうが、納税者の理解も得られよう。

現在は、あうんの呼吸で、鑑定士が正常価格のストライクゾーン高目いっぱいにコントロールするという胃が痛くなるような作業を経て「ついてゆく」状態である。

慣れれば平気だとか、それこそが鑑定士の仕事だというのではあまりに悲しい。

受認買収価格というゾーンのど真ん中に力一杯投げ込んでみたいものだ。


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