BRIEFING.204(2009.07.16)

スライド法の変動率査定と業種の考慮(2)

前回、スライド法の「変動率」に、次の@を考慮すべきか検討したが、Aについてはどうだろう。

@用途・・・・・・・・・住居、店舗、事務所、工場、倉庫
A業種・・・・・・・・・自動車部品工場、理髪店、居酒屋
B当事者の事情・・決算対策、盗難、入院、事業で失敗

たとえば活気ある駅前商業地域において1,000円調髪の登場で従来型理髪店の売り上げが激減しているとか、路線商業地域において、飲酒運転に対する厳罰化で居酒屋だけが打撃を受けている、といった場合、これらの業種につて、当該業種特有の事情を考慮すべきだろうか。

これについても、@と同様の理由で、考慮すべきと考える。但しこれも@と同じく地域の発展を妨げることになる点は否めない。

賃主には不満であろうが、淘汰される業種を見抜けずに賃貸したという点で、賃貸人も一定の責任を負うべきである。

Bについてはどうか。

銀行との約束なので黒字化に協力してほしい、料理人が入院して営業できない、失業した(住宅の場合)。実際、このような理由で賃料を下げることもあろう。逆に賃貸人から、相続税の支払いに協力を、息子が私立医大に、と値上げを求められることもあろう。

しかし、市場になり代わって価格や賃料を求めるのが不動産鑑定評価であるから、このような事情は考慮すべきではない。

対象不動産に係る公法上の規制と私法上の制約(黙示の合意によるものも含む)が同じであれば、売買・賃貸借の当事者が誰であってもその価格・賃料に変わりはないとすべきだ。

だが、継続賃料の場合は、当事者が限定されている点で、価格や新規賃料の評価とは大きく異なる。とすれば、市場を考慮しつつ、その特定された両当事者の個別事情をも考慮する必要があるとしてもおかしくはない。

大家と店子は親子も同然、という感覚は、国際社会に馴染まぬ因習として葬り去られるべきか、人間重視の思想として尊び守り続けるべきものか。ご意見を賜りたい。


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