BRIEFING.210(2009.11.02)

建物賃貸借における「敷引き」「償却」の理解に双方努力を

建物賃貸借契約に際し、借主から貸主へ支払われる一時金に関しては度々述べてきたところである(BRIEFING.046065066096167209参照)が、最近の判決を見る限り、消費者契約である建物賃貸借において「敷引き」「償却」といった内数表示の取り切り一時金(BRIEFING.209で言う「甲種一時金」)は無効というのが世の流れのようである。

判決は「敷引き」の性格を、通常損耗に係る原状回復費とし、それは賃料から充当すべきものとしている。

しかし、通常損耗に係る原状回復費は、主に賃借人が交代した時に生じるものであり、何時どのような頻度で起こるか分からない交代に伴う費用を、月々の賃料に織り込もうというのは困難な作業である。

その費用(通常損耗分のみ。それを越える部分は解約時に別途請求)をあらかじめ確保しておこうという方が合理的ではないだろうか。基本料と考えてもよい。

一方、今のところ「礼金」「権利金」といった別途表示の取り切り一時金(甲種一時金)は有効と考えられている。

内数表示なら無効で別途表示なら有効というのも腑に落ちないところである。

判決では、一時金の名称毎にその性格や意義を分析の上、その有効・無効を判断しているが、お金に色が付いている訳ではないからこれらの経済的効果に変わりはない。

主観的にはともかく、客観的には表示方法の相違と指摘しておきたい。

仄聞するに、どうも内数表示では消費者の誤解を招き、別途表示なら分かり易いということらしい。しかしそれは地域の習慣の問題で、逆に、契約に際していくら用意しなければならないかが総額で明示されている方が分かり易いとも言えはしまいか。

少数派は多数派に倣えというのであれば、多数派の傲慢と言わねばならない。

さりとて何でもかんでも“郷に入れば郷に従え”と自己の流儀を貫くのも大人げない。賃貸人(事業者)側としても消費者に対し両方の表示方法があることを積極的に広報する等の努力を惜しんではならない。

一方、消費者契約法第3条第2項は「消費者は、消費者契約を締結するに際しては、事業者から提供された情報を活用し、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容について理解するよう努めなければならない」と消費者側にも努力義務を課している。

少数派(内数表示主義)の努力はもちろんだが、多数派(別途表示主義)の努力もまた必要であろう。


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