BRIEFING.216(2010.01.28)

解りづらい不動産鑑定評価基準の用語

不動産鑑定評価基準に用いられている用語の中には、その言葉の一般的な意味とはやや異なる意味を有するものが少なくない。

たとえば「近隣地域」。

これは対象不動産(鑑定評価の対象となる不動産)の存する地域を指し、取引事例の存する地域については使わない。すなわち「取引事例の近隣地域」は間違いとなる。また「対象不動産の近隣地域」は間違いとまでは言えないが「馬から落馬」の類となる。

さらに「周辺地域」。

これは「近隣地域」の周辺の地域を指し、「対象不動産」や「取引事例」といった個々の不動産の周辺の地域を指すものではない。したがって、「対象不動産の周辺地域」はありえない。

次に「類似地域」。

これは「近隣地域」と地域要因の類似する地域を言う。ある種の類似の用途の不動産がまとまった地域のことを言うのではない。一方、不動産鑑定評価基準の用語ではないが固定資産税の世界には「状況類似地域」という用語があり、これは前述の「近隣地域」とほぼ同義である。

この他「最有効使用」「標準的使用」も誤解が生じやすい。

賃貸人側から見ると、受取る側なのに「支払賃料」(BRIEFING.089参照)では違和感がある。「実質賃料」も金利やGDPの名目と実質の「実質」を連想し、物価の変動を考慮した賃料のように感じられる。

また、賃料の評価で「価格時点」とはいかがなものか。

不動産鑑定士どうしでは使い慣れた用語ではあるのだが、訴訟等で相手方や裁判官にすぐ解ってもらえる用語とは言えない。ましてや不動産に疎い一般の人たちには、解りづらい。

この解りづらさが、鑑定評価への口出しに対する障壁となってはいないだろうか。これこそが「専門性」だと開き直ってはならない。

不動産業界や、金融、法律、経済の用語との整合性にも留意した上で、ここはひとつ用語の見直しも検討すべきかと考えるがいかがだろうか。


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