BRIEFING.223(2010.05.27)

収益重視の定着で重要性を増す比準価格

不動産の価格を求める手法には、原価法、収益還元法、取引事例比較法がある。そしてそれぞれから求められる価格を、積算価格、収益価格、比準価格と言う。

昭和の終わりから平成の最初にかけては、収益価格を考慮せず、比準価格を重視して商業地の取引が行われたが、これもバブルの原因の1つであったと言われている。

その後、バブル崩壊を経て、収益価格重視が定着し、もうバブルは起きない、というのが、先般のファンド・バブル崩壊前における不動産業界の主たる認識であったと思われる。

さて、収益価格と比準価格との違いをある面から見てみると、次のことが指摘できる。

●収益価格・・・ある者による収益予測を基礎とする。
●比準価格・・・多様で多数の収益予測を基礎とする。

但し比準価格についてのこの性格は、市場参加者がそれぞれに収益重視の考え方を持って取引していることが前提となる。

つまり、多くの収益価格に基づく取引が市場に蓄積してゆけば、比準価格もそれを反映したものとなってゆき、結果的に多くの収益価格が1つの比準価格を作り出すことになると考えられるからである。

では、ファンド・バブルの頃はどうだったであろうか。

当時“収益価格だから大丈夫”と言われた収益価格は、実は特定の誰かが査定した収益価格であったと思われる。事実、その収益価格が、比準価格を大きく上回っていたケースも散見された。

市場よりも、特定の誰かを信用したのである。

しかし多くの取引価格が、収益価格重視で決定されているとすれば、多くの取引事例を基礎とする比準価格は、単なる収益価格よりもより精緻な収益価格と言える。

収益価格が定着した市場では、比準価格の重要性が増す、と言うべきである。

「収益価格が重視されていない時代には、収益価格に着目すべし」
「収益価格が重視されている時代には、比準価格に着目すべし」

一戸建住宅地域等を除き、商業地域においては、そう考えなければならない。


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