BRIEFING.225(2010.06.24)

価値のない欠陥住宅の「居住利益」

建替えが必要なほどの欠陥住宅について、買主が売主に、その損害賠償を求めた訴訟の最高裁判決があった。問題は、損害賠償額から、居住していた期間の家賃相当額を差し引くべきかどうかであった。

一審・名古屋地裁は、これを差し引いた3,100万円の支払いを命じ、二審・名古屋高裁はこれを覆して減額を認めず3,900万円の支払いを命じていた。

最高裁は、「新築住宅に重大な欠陥があり、倒壊の危険などで建物自体に価値がない場合、住んでいたからといって損害賠償額を減らすことはできない」として二審判決を支持した。

原告は、当初この欠陥を知らずに、そして途中からは知りつつ(経済的な理由で)この住宅に住んでいたと思われる。

ところで、この欠陥が顕在化せず、その存在を知らないうちは、他に何ら支障がなかったなら、この住宅にも住む価値があったと言えるのではないだろうか。知ってしまってからは不安であり、誰も住もうとしないであろうから、その時点で住む価値がなくなったと言えるだろう。

そうすると、知らないうちに限れば家賃相当の居住利益を得ていたとも言える。実際、その家が賃貸であったとすれば、その期間中、相当の家賃を支払っていただろうし、欠陥を知って退去したとしても、それまでの家賃を遡って返せとは言えないと思われる。

それに「倒壊の危険」がある中古住宅はたくさんあるだろうし、気が付かないまま、それが賃貸されている場合もあろう。

さらに、重大な欠陥を知ってしまってからも、建物に対する賃料は0としても、その敷地を占有することで家賃相当額の一部の利益を得ていたと言えなくもない。

裁判長は、補足意見として「欠陥の発見と特定には時間がかかり賠償が遅れるほど額が少なくなることは公平ではない」と述べ、減額を認めると誠意のない売主を利することになる点を指摘している。

なるほど、被害者の救済を重視すれば妥当な判断である。

一般に建物の欠陥は、それまでは住み心地に何ら問題がなかったのに、地震や台風があって、あるいは数年を経て、初めて露見する、という場合が多い。

するとその場合、それまでの居住利益は遡及的に消滅すると考えるべきなのだろうか。その居住利益はまぼろしにすぎなかったのだろうか。


BRIEFING目次へ戻る