BRIEFING.226(2010.07.05)

不動産鑑定評価額に織り込まれているか?−将来の建物取壊し費用

有形固定資産の除去に関して、法令または契約で要求される法律上の義務を資産除去債務として財務諸表に反映させる会計ルールが導入される。但し法律上の義務によらず、企業が自らの判断で除去する場合はこれには当たらない。

しかし自らの判断で除去するとしても、有形固定資産、たとえば建物は、いずれ建て替えるべき時期を迎える。ならばその取壊し費用の見積額を現在価値に割り引いて債務と認識しておくべきかも知れない。

ところで、土地の収益価格を求める手法に土地残余法がある。この手法は、更地の価格を求める場合の手法で、新築・賃貸・取壊し、そしてまた更地に戻すといったことを想定するので、将来の建物取り壊し費用もちゃんと考慮している。

その算式は難解で一言では説明しがたいが、建物取壊し費用を一定の利率で割り引いて毎年の標準的純収益に積立金として織り込んでいる。

土地建物の収益価格を求める際に多く用いられる永久還元法においてはどうだろうか。

永久還元においては、建物の新築・取壊しが永久に繰り返されることが想定されており(BRIEFING.042043参照)、何10年かに1度の再築費用や、その間無収入であることなどとともに、取壊し費用が還元利回りの中に織り込まれていると考えることができる。

但し建て替えの時期が近い場合は、その土地建物の価格に及ぼす影響が大きいため、建て替えまでは有期還元、それ以降は永久還元としてその影響を具体的に織り込む必要がある。

では、積算価格には考慮されているだろうか。

確かに新築時やまだ十分に耐用期間がある場合、考慮されない。しかし残存耐用期間があと10年程度となってくれば、建物は使用価値と取壊し費用で相殺(かなり大雑把だが)とし、もうすぐにでも取壊すべき建物なら、更地価格から取壊し費用を控除したものがこの土地建物の価格となる。

つまり、まだまだ使える建物なら、取壊し費用の現在価値は小さいから無視し、あと少ししか使えないなら考慮する、ということで、かなりザックリとだが、割り引いた額で考慮していると言えなくもない。

比準価格については何とも言えないが、市場が暗黙の内にこれを織り込んでいると考えてもよいだろう。

このように、不動産鑑定評価額に将来の建物取壊し費用が織り込まれていると考えることもできる。


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