BRIEFING.233(2010.11.08)

USJの地代増額請求、調停不調で訴訟へ?

此花区のUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)に土地を賃貸している大阪市が、その地代の増額について大阪地裁に調停を申し立てていた(BRIEFING.218参照)が、今般、不調に終わった。

報道によると、その地代は、USJが民間から借りている他の土地の地代より大幅に安く「納得できない」と市は主張していると言う。しかしその主張通り、近傍類似の地代に比して安いとしても、それだけで地代増額の理由になるかは疑問である。

一方で、契約始期以降、地価の下落、景気の低迷があり、(一時的な地価反転、景気回復があったにせよ)地代増額どころか、減額圧力があると言ってもよいからである。

確かに大阪市にしてみれば、不公平だという不満があろう。しかし継続賃料は、契約後に生じた価格形成要因の変動を反映して形成されるべきで、当初から生じていた地代の水準の高低は、将来的にも織り込まれていくべきではないだろうか。

これは、一見、不公平のようにも感じられるが、売買の場合に比べればそうでもないことが分かる。売買なら、契約後の価格形成要因の変動や当事者の事情の変更で価格が改定されることはないからである(BRIEFING.174参照)。

10年前に土地を売った売主が、あの時は慌てていて安く売ってしまったから・・・と言って、今から追加でもう少し払ってよとは言えない。売主は悔しがるしかないのだ。

賃貸借においても、契約した時には、その時の様々な事情を背景に地代が決定されたはずで、その事情による(正常賃料との)開差は維持されるべき(水準維持説)ではなかろうか。

当初の開差まで後日解消が認められる(正常接近説)とすれば、あえて安く貸しておいて、後で増額を請求するということが可能になる。安いから借りた賃借人には想定外である。

その後の改定で解消すべきは、当事者が意図せずに生じた開差である。つまり考慮すべきは契約後に生じた事情、あるいは変化した事情のみという訳である。

そして、経済社会における地代水準のあり所は、改定により維持されるのである。

継続賃料を求める鑑定評価の手法のうち、正常賃料が関与するのは差額配分法のみであり、その他の3つ、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法は、正常賃料を無視した手法であることを忘れてはならない。


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