BRIEFING.239(2011.02.16)

不動産鑑定評価の「事例資料」と「周辺資料」

不動産鑑定評価に重要な資料は、取引事例、賃貸事例、造成事例、建設事例、賃貸建物の管理費に関する事例等の「事例資料」である。

これらは、実際にいつどこでどんな不動産がいくらで売買されたか、賃貸されたか、といった情報、あるいはいくらで造成され、いくらで建設されたかといった情報である。

一方、あの地域では最近、若者向け店舗が増えてきたとか、新たな工場が建設されるとか、新駅ができるらしいといった情報もある。

さらに、消費者物価指数、GDP、賃金指数、失業率、人口、景気に関するアンケート結果といった情報もある。

これらを「周辺資料」と呼ぶこととする。

さて、不動産の価格を求める鑑定評価を行う場合、周辺資料を価格の査定にどう活用すきであろうか。次の3つの態度が考えられる。

@周辺資料に惑わされてはいけない。
A周辺資料を積極的に活用すべき。
B周辺資料は時点修正と還元利回りの査定等に限定的に活用すべき。
C周辺資料は結果の検証にのみ活用すべき。

@は、あえて事例資料以外の雑音を排除するという態度。周辺資料もやがて市場がそれを咀嚼し、事例資料となって表れてくるので、考慮の必要はないというもの。勝手にその影響を判断することは恣意性の介入につながる。市場に対して謙虚と言えようか。

とはいうものの、そんなにうまく事例資料を収集できるはずはないから、むしろ周辺資料で価格の目星を付け、事例資料をその理由付けに利用すべきというのがA。私が市場になり代わって判断するという態度で、ひとつ間違えば傲慢と言ってもよかろう。

Bは、時点修正や還元利回りの査定というあいまいさの避けられない部分にのみ、周辺資料を活用してゆこうという態度である。確かに、そうでもしなければ時点修正や還元利回りの査定は不可能である。

Cは@で結論を得た上で周辺資料をその説明、検証に利用しようというもの。

@は「事例資料原理主義」、Aは「周辺資料重視主義」、B「周辺資料限定活用主義」、Cは「周辺資料検証主義」と言うことができる。


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