BRIEFING.245(2011.04.12)

震災後の今、不動産鑑定評価は社会的責任をはたせるか?

東日本大震災は、今なお余震が続き、原子力発電所からの放射能問題も収束せず、その被害の全容は掴めぬままである。

そんな中、多くの企業が決算期を迎え、基準日における資産の時価の把握が必要となっている。大地震の発生が3月11日であったから、その前後で保有資産の時価が大きく変動していることが予想され(BRIEFING.243参照)、その意義は重要である。

上場株式のように日々時価が示される資産について、“評価”は不要である。

では、被災した機械設備や不動産はどうか。

たとえば販売用不動産である造成済みの区画割りされた宅地が、液状化の被害を受けたとする。宅地に砂が吹き上がってでこぼこになり、道路がうねり、電柱が傾き、上下水道管が破れた。

このような場合、これらを修復する土木工事の費用を減価額とすることが考えられる。しかし、これを修復したからと言って、この宅地が震災前の価格に戻るとは考えにくい。

地震に対する脆弱さを露呈した土地に、誰も家を建てようとは思わないだろうし、日本全体に、不動産を所有することに対する躊躇が芽生えた可能性もある(BRIEFING.242参照)。

では修復費に加え、どのくらいの減価が必要だろうか。

その答えは市場に聞かねばならない。不動産鑑定士は市場に成り代わって適正な価格を表示をするはずなのだが、市場が何の指標も示してくれない状態である今、市場に成り代わることは難しい。

市場からのサインである「事例資料」に頼らぬ大胆な評価に踏み出す必要もあるのだろうか(BRIEFING.239参照)。合理性や説明責任との折り合いは付くのか。

有事にあって、不動産鑑定評価が社会的責任を果たせるか否か、問われている。


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