BRIEFING.256(2011.09.01)

運用利回りは、投下資本利回り主義から借入金利主義へ?

収益還元法は、対象不動産を賃貸に供した場合に想定される収益(すでに賃貸に供されているなら現実の収益)に着目して、その価格を求める手法である。対象不動産が更地なら、そこに最有効使用の建物の建築を想定して収益を求める。

ところで、建物の賃貸借に際し、借主から貸主へ、敷金が支払われるのが一般的である。この一時金は、貸主にとって、賃料不払い等の際の担保となるのみならず、事業資金の追加投入や、借入の返済等に充てることができる。

そこで収益還元法の適用に際しては、実際に授受されている敷金、または実態に即して想定した敷金の運用益を収益に計上することとされている。

さて、この運用益を査定するには、運用利回りを査定する必要がある。

運用利回り(BRIEFING.052090参照)については次のような考え方がある。

@安産性の高い長期債券、預金等の利回り程度(預金金利主義)
A長期借入金の金利程度(借入金利主義)
B対象不動産に期待される利回り程度(投下資本利回り主義)

@に対しては、預かった敷金も事業資金に回すのが普通だ、という批判がある。Aに対しては、借金がない場合もあるし債務者の信用で変化するのはおかしい、という批判がある。Bに対しては、同じ現金なのに対象不動産によって変化するのはおかしい、という批判ができる。

実務では、地価公示標準地の鑑定評価でBが採用されている他、DCF法ではそのしくみ上、自動的にBが採用されるようになっている。

しかし、Bは5〜8%であり、現在の低金利時代には違和感がある。3〜4%のAや、0〜2%の@の方が、一般に説明しやすいという感じはある。

そう言うわけで、近年、DCF法においては敷金を他のキャッシュフローと分離して、AやBの考え方を採用するのが一般的となりつつある。キャッシュフロー原理主義者にはあまり面白くない。

そして、地価公示標準地の鑑定評価も、Aの立場へと舵を切る。借入金返済の優先、敷金返還請求権の保護、といった時代の流れを反映し、宗旨変えもやむを得ぬところか。


BRIEFING目次へ戻る