BRIEFING.266(2012.01.10)

賃料3年間据置特約の有効性

リーマンショック(平成20年9月)以降、不動産市況の悪化は収まらず、底を探っては東日本大震災、欧州通貨危機、と続き、反転の兆しはなかなか見えてこない。

そんな中、大型の賃料減額訴訟の提起が、昨年11月、大阪地裁であった。

原告は、大阪・心斎橋の商業ビルを一棟借りする小売業者。被告は不動産投資法人である。なお、ビルは信託されており受託者(所有者)である信託銀行が賃貸人であり、受益者である不動産投資法人は、同行を通じて訴訟の提起を受け、これに対する反論も同行を通じて主張してゆくこととなる。

原告の請求は、平成21年12月分〜22年12月26日の賃料を▲20%、それ以降の賃料を▲30%に減額せよというもので、リーマンショック後とは言え、厳しい内容である。

一方、被告としては、平成20年2月4日以降3年間は賃料据置が約定(同年10月6日付覚書)されていることを理由に、これを拒む姿勢である。

ところで、賃料据置の特約は不減額特約でもあり、賃借人に不利な特約であるから、不減額については無効と解される。しかし原契約には3年毎に改定できる(3年間はできない)旨の規定があり、これによる不減額特約も無効とすることには抵抗がある。

建物賃貸借契約で賃料改定のサイクルを2年または3年と約定しておくのは一般的なことである。なぜなら、せっかく協議して決めた賃料を、もし1年程度で改定することを認めれば、常に協議をしていなければならなくなるからである。したがって、2年毎または3年毎という規定は、不減額特約の意味を持ちながらも、合理的な一面があると考えられる。

賃料減額請求の和解後、賃借人が5ヶ月後に再度減額請求をした事件で「信義則に反し権利の濫用」とされ、賃借人の請求が棄却された判例(平成13年2月東京地裁)もある。

相当の期間経過後であれば、経済状態や市場動向の変化により賃料増減額を求めることは許されてしかるべきであるが、時間的に近接しておれば、和解をもって紛争を終了させたとうい趣旨を没却するもの、とうい訳である。

心斎橋のビルの場合、3年間は賃料据置という積極的特約が賃貸人にさらに有利な事情となるか、それは無効とされ逆にリーマンショックという経済状態の急変が賃借人に有利な事情とされるか、見守りたい。

2年または3年毎の改定は、広く是認されてきた賃料の遅効性、粘着性を形成する要因のひとつである。その有効性にも関わってくる問題である。


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