BRIEFING.274(2012.04.02)

「最終合意」を「新たな基準」としてよいか

継続賃料の鑑定評価の手法には、@差額配分法、A利回り法、Bスライド法等がある。

このうち、@が正常賃料を重視し、最終合意時点を問題にしないのに対し、逆にABは最終合意時点を重視し、正常賃料を問題にしないという特徴が見られる。

@は客観的・水平的公平を重視し、ABは主観的・垂直的公平を重視していると言うこともできる(BRIEFING.069081123173参照)。

さて、ABの適用にあったっては、最後合意時点における賃料、基礎価格、必要諸経費等が基礎となる。しかし最終合意がどのように形成されたかは無視されがちだ。

最終合意は賃貸借契約関係から離脱できない両当事者間の協議によって生まれるが、その協議は、双方の知識、経験、交渉力、時間的余裕、体力等の違いにより、対等でない場合がある。その結果に対する満足度にも差があろう。

また、たとえば賃借人が18年ぶりに家賃の値下げを打診し、門前払いを食わされたとしよう。そしてその2年後、再び協議を申し入れたとする。20年ぶりの協議との認識である。しかし賃貸人は2年前に賃料据置で合意したとの認識であった。

20年前か2年前か、どちらを「最終合意」と見るかで前述の2手法で求められる賃料は大きく異なる。

また、改定はしたものの前回からの経済情勢の変動を1度の改定で調整しきれず、今回はとりあえず20%だけ、残りは次回に積み残しといったこともある。

以上のようにABにおける「最終合意」重視には、「非対等協議」「満足度格差」「据置改定」「積み残し改定」といった問題が付きまとうことを忘れてはならない。

「最終合意」を「新たな基準」として鵜呑みにし、次回改定に反映させるのは危険だ。

そこで、賃貸借関係に入るか否か、双方が自由に選べた時点、すなわち当初契約時点の合意「当初合意」をも重視すべきである。いや「当初合意」こそ重視すべきである。歪められた「最終合意」を「新たな基準」としてはならない。

ただ、「当初合意」が何十年も前で先代の契約ともなれば不明な点が多く、これに基づくABの適用は実務上困難であろう。

その点を補うのが、正常賃料重視の差額配分法である。「当初合意」は当時の正常賃料ではなかったか(そうでなければ貸さない、借りない)という推定を基礎とし、それに対する歪みを是正しようとするものと考えられる。


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