BRIEFING.276(2012.04.19)

DCF法の割引率と、開発法の投下資本収益率

収益還元法の1つDCF法は、すでに存在する建物について、将来数年間の賃貸の後、売却を想定して、毎期の純収益及び売却時の復帰価格を一定の利率で現在価値に割り戻し、その総和をもって試算価格とする手法である。

この場合の利率は「割引率」といい、単に時間的選好度を反映した利率ではなく、費用項目に計上しなかった、投資対象としての危険性、非流動性、管理の困難性、資産としての安全性等を加味したものである。

実務上採用される率は5〜10%程度だろうか。

一方、大規模な更地で、分譲マンションの敷地、または区画割りして一戸建住宅の敷地とすることがその最有効使用である場合、その建築費・造成費、販売総額、販売費等の付帯費用、並びに取得〜完売に係る時間を想定して、当該更地の試算価格を求める手法を開発法と言う。

具体的には、毎期の収益及び費用を一定の利率で現在価値に割り戻し、その総和をもって試算価格とするものである。

この場合の利率は「投下資本収益率」といい、前述の「割引率」に織り込んだものに加え、事業主の本社経費や利益を見込んだものと考えられる。

実務上採用される率は8〜15%程度と比較的高い。

では、還元利回りには、なぜ本社経費や利益を考慮しなくてよいのか。賃貸事業にはそこまで求められない(期待されていない)ということだろうか。

確かに手法には、すでにある建物の賃貸を想定するか、これから作る建物の分譲を想定するか、という違いがある。しかしDCF法でも、更地からスタートする場合(開発型DCF法、または賃貸型開発法)がある。一方、開発法でも、共同住宅を建てて一旦賃貸して満室にしてから分譲(あるいは一括売却)というのを想定する場合が考えられる。

また、毎期の純収益を割り引くか、毎期の収益と費用をそれぞれ割り引くかという相違も、それらの現在価値を合計してしまえば、計算手順の形式的なものにすぎない。

そうすると両手法の境界はあいまいになり、本質的に同一の手法であることが分かる。とすれば実務上、採用されている利率の相違に明確な説明が求められる。


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