BRIEFING.278(2012.05.24)

老朽ビルの利回り

取引利回り10%を超えるビル、マンションは珍しくない。年間の賃料等の収益が、価格の10%超というわけである。一見高利回りと思える。

しかしそういった物件は、大概建物が古く、賃料の下落や空室率の上昇が予想される物件である。相当の修繕費も見込まれる。

このような純収益の趨勢を織り込んだ結果、高い利回り(安い価格)が形成されることとなる。

新築ビルなら当面このような心配はなく、低い利回り(高い価格)が形成されるというわけである。

一方、内訳としての建物価格の割合が高い物件ほど、利回りが高いと考えることもできる。

土地は基本的に減価しないため、それに対する利回りは低めでよいと考えられるのに対し、建物は老朽化が避けられず(必然的に価値が逓減してゆく)、それに対しては減価を織り込んだ高めの利回りが求められる。その結果、建物割合の高い物件の利回りは、高めに引っ張られるという訳である。

そうすると、土地値同然のビルなら、地代の利回りより少しよいぐらいで十分だが、新築ビルなら建物の償却を見込んでおく必要があり、高い利回りが求められるということができる。

前者は「老朽ビル高利回り説」、後者は「老朽ビル低利回り説」である。

新築ビルの利回りが低いことを考えれば「高利回り説」を取りたくなるが、減価償却費がほとんどないことを考えれば「低利回り説」優位とも思える。

両説は矛盾するようだが、次のように整理してみると判りやすい。

<高利回り説>
老朽ビルには、賃料の下落と寿命の縮減のダブルパンチ。
賃料の下落以上に価格の下落が進む。→利回り上昇

<低利回り説>
老朽ビルの価格が(土地値−更地化費用)にまで下落している段階。
賃料は下落しても価格はもう下落しない。→利回り下落

つまり、土地値に接近しつつある過程では「高利回り説」、土地値になると「低利回り説」と言える。

次のモデルなら、築40年で高利回り、60年で低利回りというわけだ。

築年数(年)  0  20  40  60
価格(百万円)  300  200  100  100
賃料(百万円/年)   15    12    9    5
利回り  5%  6%  9%  5%
 

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