BRIEFING.279(2012.05.31)

不動産取引と消費税の転嫁

社会保障と税の一体改革は、その時期や順序はともかく、いよいよ避けて通れないものとなってきた。その中で安定財源確保の柱となるのは、消費税及び地方消費税の増税である。現在の5%を段階的に10%にまで引き上げるという。

逆進性の問題については、税・社会保証による再配分でなお不足する場合「複数税率よりも給付などによる対応を優先」する方針とのこと。つまり、軽減税率の適用範囲を巡る混乱を避ける趣旨と思われる。

よく引かれる例として、ハンバーガーを店内で食べれば外食だから課税、もって出れば食料品の販売として軽減税率または非課税(日本ではいずれも課税)といった不合理があげられる。

英国では、宅配ピザはどうなのかが裁判で争われたという(保温状態での宅配はケータリングサービスとして課税の判決)。

業界団体の思惑が絡めばなおややこしい。軽減税率排除の方向は支持したい。

しかし今でも、課税対象に馴染まない物の取引や、政策的配慮から課税しない取引は非課税取引とされている。土地の譲渡・貸付け、住宅の貸付け等である。

これらに関し、様々な矛盾や線引きの難しさが指摘されている。

たとえば、舗装されフェンスや車止めの付いた駐車場の売買・賃貸借は土地の譲渡・貸付けと言えるか。また賃貸マンション付随の駐車場の賃貸借は、住宅の貸付けに含まれると言ってよいだろうか。

これらについては、国税庁のタックスアンサーを参照いただくこととする。

政府は去る4月24日「消費税の円滑かつ適正な転嫁等のための検討本部」を設置したが、そもそも消費税については、転嫁についての理解の難しさもある。

すなわち、非課税取引なのに価格転嫁するとはけしからん、便乗値上げだ、といった誤解がある。

たとえば、造成された土地の原価には、素地価格(非課税)以外に造成費等(課税)が含まれる。これを中小不動産業者が大手住宅メーカーに譲渡する場合、造成費に係る増税分を価格転嫁することに理解が得られるだろうか。

また、住宅の賃料には、建物の維持管理費(課税)が含まれている。その維持管理費に係る増税分を賃料に転嫁することに借家人の理解が得られるだろうか。

ではこれが事務所なら、増税となった税率分をすべて賃料に転嫁すべきだろうか。いや、事務所の賃料の何割かは土地の賃料であるし、建物分にしても増税前に建てた建物の賃料なら転嫁の必要はないというべきである。


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