BRIEFING.285(2012.09.03)

賃貸借の両当事者からの鑑定評価依頼

不動産の鑑定評価によって求られるのは価格ばかりではない。賃料も求められる。中でも鑑定評価の真骨頂とも言えるのが継続賃料の鑑定評価である。

新規賃料の場合、特殊な場合を除き市場が存在するため、それに決定を委ねることができるため、鑑定評価の出番は少ない。しかし継続賃料の場合、賃借人にとっては投資の回収や転居費用の問題があり、賃貸人にとっては借地借家法の問題があり、容易には契約の相手方を変更することができないため、市場に決定を委ねることができず、鑑定評価の出番となる。

さて、鑑定評価額に、誤差があることは広く知られている。そしてその誤差は、不思議なことに、依頼者に有利な方向に偏っている場合が多いように感じられる。

あってはならぬことだが、継続賃料の場合、賃貸人からの依頼なら高めに、賃借人からの依頼なら低めに、といった具合である。賃貸借の両当事者が、それぞれ鑑定評価を依頼し、その結果がこの逆であったという話は聞いたことがない。

これがそれぞれの代理人弁護士の意見であったなら、おかしくはない。しかし不動産鑑定士は依頼者の代理人ではない。

たとえばある賃貸借において、継続賃料について争いが生じ、賃貸人がある不動産鑑定士に適正な継続賃料の評価を依頼したとする。それと知らない賃借人も偶然同じ不動産鑑定士にそれを依頼したとする。

その時、その不動産鑑定士が取るべき態度は如何に。

@後の依頼を拒絶する。
A両者に事情を話し、一つの鑑定評価書を提出(報酬は折半して請求)
B素知らぬ顔で両者に同内容の鑑定評価書を提出(報酬両取り)
C素知らぬ顔で両者に異なる内容の鑑定評価書を提出(報酬両取り)

Cは論外、Bも道義的に許されまい。では@Aはどうか。どちらが取るべき態度か。

不動産鑑定士が、常に偏りのない公平妥当な態度を保持するなら、Aであろう。@の態度を取るべき理由は見当たらない。

代理人ではないのだから、双方代理とはなり得ないはずである。


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