BRIEFING.287(2012.09.27)

マイナス・キャッシュフローの現在価値

不動産の価格を求める手法の1つ、収益還元法には直接還元法とDCF法がある。DCF法は収益分析期間における各期のキャッシュフロー(以下CFという。)及び最終期の処分見込み価格を還元利回りで割り引いて現在価値を求め、その総合計をもって対象不動産の価格とする手法である。

通常、すでにCFを生んでいる不動産、またはこれから生んでゆくであろう不動産の価格を求める際に適用されるが、これから新たな追加投資を行わないとCFを生まないといった不動産の場合にも適用される。

それが更地の場合には、開発型DCF法(あるいは賃貸型開発法)と呼ばれることがある(BRIEFING.276参照)。

このような不動産の初年度CFはマイナスとなる。建築費がいる一方、収益がすぐには発生しないからである。大規模な開発なら2年目、3年目もマイナスかも知れない。

では、マイナスCFの現在価値(もちろんマイナスの価値)も、プラスの場合同様に割り引いて求めるべきであろうか。

この点、保守的に、マイナスの期については割り引かないとの考えもある。確かに来期に予測されるマイナスを割り引いて小さく評価してしまうというのは、楽観的だとも思える。

また、還元利回りは事業のリスクが高いほど高く査定されるから、リスクの高い事業であるほどマイナスCFが大きく割り引かれる(小さく評価される)という矛盾が生ずる。

むしろ、マイナスCFに対してはその資金調達コストも考慮すべきかも知れない。

しかし、そもそも期毎にプラス・マイナス相殺後に割り引いているということは、マイナスCFもプラスCFと同率で割り引いているということだから、たまたま相殺後がマイナスの期だけ割り引かない(または還元利回りを小さくする)というのでは恣意的に過ぎるとも考えられる。

また、来期のマイナスを埋めるに足る今期の資金は同じ還元利回りで割り引いた金額でよいと考えられるから、やはり還元利回りは同じでよいとも言えそうだ。

マイナスCFについて、保守的に考慮する(保守主義)か、一律に取り扱う(一律主義)か、議論が必要である。

なお実務上は、マイナスCFとなる期が初期の短期間に限られることから、結論に大きな影響がなく、それよりも各期の収支項目の査定に重きが置かれるべきであるため、簡素な一律主義が採用されているものと思われる。


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