BRIEFING.288(2012.10.04)

持っている人の最有効使用、これから買う人の最有効使用

土地の不動産鑑定評価において、対象不動産の最有効使用を判定することは重要である。土地の価格はその最有効使用を前提として把握されるからである。

土地の最有効使用は、その土地の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用方法であり、良識と通常の使用能力を持つ人による合理的かつ合法的な最高最善の使用方法に基づくものである。

そしてそれは、その地域の特性に加え、対象不動産の接面状況や形状、規模等を勘案して判定される(BRIEFING.059参照)。

たとえば、住居地域(容積率200%)の地域で、幅6mの市道に14mの間口で面する奥行15mの長方形の土地があったとしよう。近隣地域の標準的使用は一戸建住宅の敷地である。

マンションも十分に建つ。しかし分譲マンションとしては小規模で嫌われる。賃貸マンションなら需要もありそうだ。

近隣地域の一戸建住宅の敷地規模は100u程度。一戸建住宅として分譲するなら210uは大きすぎる。そこで2区画に分割する。間口7m、奥行15mの105uならちょうどよい。

このような遊休地を、古くから所有している人はどう考えるだろうか。

売却すれば譲渡所得に多額の所得税が課される。売らずに賃貸マンションでも建てるか。200%の容積率も使い切らないと損だ。それに貸家建付地の評価で子供に相続させることもできる、と考えることだろう。周囲の“専門家”もそれを進めるだろう。

では、これから取得しようとする人はどう考えるだろうか。

1から土地を買って賃貸マンション経営が成り立つ地域ではない。キャピタルゲインが期待できる時代でもないし。2区画に割って建売りまたは建築条件付きで分譲、といったところか。地元の業者はそう考えて値段を付けてくるだろう。

立場によってこのような違いがあると考えられる。

ところで、不動産鑑定評価において土地の最有効使用を想定する目的は、市場で形成されるであろうその土地の価格にアプローチすることにある。そうすると、想定すべきは後者、すなわちこれから取得する人(市場参加者)の最有効使用でなくてはならない。

最有効使用は、今の所有者(土地代が重要でない人)にとっての最有効使用ではない。


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