BRIEFING.289(2012.11.01)

耐震診断・耐震改修と借家権

耐震改修促進法は、地震による建築物の倒壊等の被害から国民の生命、身体及び財産を保護するため、建築物の耐震改修の促進のための措置を講じることにより建築物の地震に対する安全性の向上を図り、もって公共の福祉の確保に資することを目的としている。

そしてその第3条には、国、地方公共団体、そして国民の努力義務が定められている。

そこで国や地方公共団体は、基本方針の作成、促進計画の作成、税の優遇や補助金といった「措置」を講じ、耐震診断、耐震改修の推進に努めているところである。

学校、病院等の「特定建築物」については「指導・助言」「指示・公表」といったメニューを用意し、強制に近い形の努力義務を課している。しかし、一般の住宅や事務所においては、耐震改修はおろか、耐震診断さえ積極的には行われていないのが実態である。

せめて診断だけでも・・・、と思うのだが。

ところで、宅地建物取引業法による重要事項説明では、昭和56年5月31日以前に新築工事に着手した建物について、一定の耐震診断がある場合には、その内容を説明することとされている(平成18年4月施行)。

つまり診断結果があれば説明せねばならず、なければないで結構、ということなのである。すると、賃貸マンションや事務所の場合、悪い診断結果が出れば大変にまずいことになり「診断していません」という方が無難ということになる。

恐ろしくて診断は受けられないのである。

また、診断や改修には、借家人の協力が欠かせない(多くの地方公共団体は、補助金の申請に際し借家人の同意書添付を義務づけている)。改修については、工事中の騒音・振動のみならず、窓の一部が鉄骨ブレース(筋交い)で塞がれたり、有効面積が狭くなったりする可能性があるからであろう。

工事費を投じた上、それを理由に賃料を値切られたのでは、所有者はたまらない。いっそのこと建替えるかと思っても借家権があるので立退きも簡単にはいかない。

国土交通省は、床面積5,000u超の建物の他、幹線道路沿いにある建物、昭和56年以前に建てられたビルやマンション等を対象に、耐震診断の義務化を検討中という。最大で全額の補助も用意される一方、違反者には罰金が科され、診断の結果、耐震性が不足する場合には、改修や建替えが求められ、従わなければ名称公表だそうだ。

アメとムチの効果は大きかろう。しかし、ネックは借家権ではないだろうか。借地借家法にも一定の特別措置を定め、すみやかに町の安全性向上を図るべきである。


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