BRIEFING.303(2013.05.02)

賃借人の業種と賃料改定の指標

継続賃料を求める鑑定評価の手法の1つ、スライド法は「現行賃料を定めた時点における純賃料に変動率を乗じて得た額に価格時点における必要諸経費等を加算」する手法である。

そして変動率は「土地及び建物価格の変動、物価変動、所得水準の変動等を示す各種指数等を総合的に勘案して求めるもの」とされている。

さらに、商業利用目的なら、その業種の盛衰を反映した指標の変動率も考慮すべきと考えられる。たとえば、スーパーマーケットなら、同業店舗の売場面積当たり売上、自動車販売店であれば自動車販売台数、等の変動率である。

なぜなら、契約更新の拒絶に際し賃借人の事情が考慮されるのなら、賃料改定に際しても考慮されるべきだからである。

物販・飲食店舗で多く見られる売上歩合は、同業店舗でなく、正にその店舗の売上に連動する仕組みである。

このように、賃料を一定のルールで増減する特約は、そのルール以上の減額を行わないという意味で、一種の不減額特約とも考えられるが、そのルールに則ることで賃借人に特段の不利益がない限りは有効と考えられる。

さて、東京証券取引所が賃借するビルでは、かつて賃料が株式の売買高や代金に連動するしくみになっていたという。ところがその後、賃料は固定制に変更され、近年の賃料の推移は、オーナー会社の有価証券報告書等によると次の通りである。

平成18年4月〜 4,812百万円/年
平成20年4月〜 4,812百万円/年
平成22年4月〜 4,812百万円/年
平成23年4月〜 4,412百万円/年(▲8.3%)

その後は「日本国内の経済指数等に連動して自動的に改定する方法を採用することとし、具体的な経済指数等その他の連動方法の詳細について」協議が進められたものの「協議が整わず」次の通り大幅減額の固定賃料とすることで決着したという。

平成25年4月〜 3,900百万円/年(▲11.6%)
平成27年4月〜 2,700百万円/年(▲30.8%)

ルールの合理性に、将来動向を睨んだ損得勘定が絡み、接点が見つからなかったのだろう。

確かに「自動的に改定」は双方にとって魅力だ。しかしどちらかが痛い目に遭う可能性を秘めた悪魔のささやきでもある。面倒だが2年更新としてその都度誠実に協議して賃料を改定するのが公平なのではないだろうか。

新聞報道によると、オーナー会社の執行役員は「株式売買に連動する賃料契約が残っておれば・・・」とぼやいたとのこと。


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