BRIEFING.304(2013.05.22)

三井寺地下の区分地上権

滋賀県大津市の三井寺(天台寺門宗総本山・円城寺)の地下深くには、京都市の管理・所有する3本の地下水路が貫通している。琵琶湖から京都市内へ至る琵琶湖疎水の一部である。

1本目(第1疎水)は明治23年の完成、2本目(第2疎水)は同45年の完成といずれも100年以上前のもの、3本目(第2疎水連絡トンネル)は1本目の真下に位置し平成11年完成で比較的新しい。

その地下の使用権を巡っては京都市と寺側の長い争いがあった。

ところで、明治政府は「社寺領上知令」(明治4年)や「地租改正」(明治6年頃〜)によって「官民有地区分」を進めたが、その結果、多くの官有境内地が生じ、三井寺の境内地もこれによって国有地となったという。

その後の昭和27年、三井寺は「社寺等に無償で貸し付けてある国有財産の処分に関する法律」(昭和22年)によって国から境内地を譲与(事実上の返還)されている。

しかしこの時、すでに京都市の管理・使用する疎水が境内の地下に存在し、譲与はその権利の負担付きであったのである。それは旧国有財産法に基づく使用権と解され、1952年(昭和27年)から30年後の1982年に自動更新されたと解される。

そしてさらに30年後の2012年を前に寺側が更新を拒絶、市に使用権がないことの確認を求めて提訴したのである。京都地裁が権利の濫用としてこれを認めなかったため寺側が大阪高裁に控訴。結局、市の主張が概ね認められる形で先月和解に至ったという。

和解内容は、寺側が京都市のために区分地上権を設定、期間は疎水トンネルの所有を目的とする限り(半永久)とし、対価も無償、維持管理のためには必要な範囲で地表部分の使用も認める、というもの。

ところが区分所有権の設定登記に際し、@設定部分を分筆する必要があり、Aそのためには一筆の土地全体(約76万u)について測量する必要があり、Bそのためには周囲の地主との筆界確認が必要、とハードルが高い。そこで設定部分を含む土地全体に設定し、設定範囲は図面で確定し、これを和解内容に盛り込むことで決着している。

付近は春に美しく桜が咲く観光スポットでもある。長年の争いがスッキリ解決し、来春は一段と美しい花が眺められそうである。


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