BRIEFING.306(2013.06.14)

地域の熟成と世俗化・老朽化

新たに開発された大規模住宅団地の区画は、十分な道路幅員が確保され、公共下水道はもちろん、公園も整備され、周辺の古い団地や旧集落に比べ、諸条件に優れている。

それでも、そこに住宅が建ち始める前は、そこがどんな街になるかイメージできず、需要者にその魅力が理解されにくい。しかし、そこに小洒落た建売り一戸建住宅が建ち始め、美しい街並みが形成されてくると、需要は一気に具現化してくるのである。

このように、新しい団地は“熟成”されて価値を増してゆくのである。

このことは、不動産鑑定評価基準の中で土地の原価法における“熟成度加算”として理解される。

その“熟成”の結果は時として、交通接近条件に勝る周辺の古い住宅団地の価格を上回り、従来の格差認識では説明しきれない力を発揮する場合がある。

しかし、その“熟成”は“熟成”と言うより、手垢の付いていない新品の良さ、生活感のなさに対する過大な評価であると考えられる。汚れのない住宅、白い玉砂利の敷かれたアプローチ、狭いながらも美しい芝生・・・・。

さて、このような住宅展示場のような街並みが、数年経つとどうなるであろうか。

増えた家財道具を入れる物置が庭の隅に置かれ、芝生に雑草が茂り、大きくなった子供の三輪車や汚れたプランターが放置される。物干し場が増築されたり洗濯物を隠す塩ビの波板が取り付けられたり・・・といった有様が想像できる。

さらに数年経つと、水道管の修理で掘り返されて道路が継ぎ接ぎになり、ゴミ・ステーションの周りにこすっても落ちない汚れがこびりつき、電柱には様々な張り紙の跡が残り、側溝にたまった落葉や泥からは雑草が生えてくる。それぞれの住宅の外壁に汚れやクラックが目立ち始め、金属部分には錆も出てくる。

こうして地域は生活感に溢れ世俗化・老朽化するのである。

かつて、閑静な住宅団地は、それぞれ住む人々によって適切に管理されてきた。庭木は剪定され、庭石は苔むし、正に“熟成”し古いなりに風格を増していったものである。さて昨今の住宅団地はどうであろうか。


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