BRIEFING.308(2013.07.01)

「私のしごと館」改正総合特区法で無償譲渡へ

京都府精華町・木津市の関西文化学術研究都市にある「私のしごと館」(敷地面積8.3ha)は国の所有する職業体験施設であったが、赤字が続いて平成22年に閉館したまま放置されている。厚生労働省管轄の独立行政法人「雇用・能力開発機構」(解散)が581億円をかけて平成15年にオープンし、その後わずか数年間で閉館し、今に至ったのである。

閉館後、2度に渡り、一般競争入札での売却を試みたが買い手は現れなかったと言う。

そこで無償譲渡を申し出たのが京都府である。地域の研究開発の拠点として利用したいので、タダで譲れというのである。

タダとはあんまりだ、581億円もかけたのに・・・とは言うものの、いくら多額の費用をかけたものでも価値のない物はタダ同然、ということは「かんぽの宿」の例を引くまでもない。ではお申出の通りタダで・・・。

しかし、財政法第9条がこれを許さない。国の財産は「適正な対価なくしてこれを譲渡し若しくは貸し付けてはならない」とされているのである。一方、国有財産法第28条は、普通財産を「譲与することができる」場合、つまりタダであげてもよい場合を示している。だがそれは、営利目的でない火葬場、墓地、ごみ処理施設等の公共団体への譲与等、極めて限られたもののみである。もちろん本件の場合は該当しない。

今回、これを可能としたのは、総合特別区域法(いわゆる総合特区法)の改正である。

この改正法は国有財産法の特例を定めており、「特定建物等」を「先端的研究開発推進施設整備事業」の用に供しようとする場合には、譲与可能としたのである。

「特定建物等」とは、国有財産法上の普通財産である「建物及びその付帯設備並びにこれらの敷地」のうち、@買受け人がない、A解体した場合の廃棄物撤去費用が敷地価格を超える、B維持保存に多額の費用が必要、といったものである。

「先端的研究開発推進施設整備事業」とは「国際戦略総合特区において大学その他の研究機関と連携して先端的な研究開発を推進するために必要な施設を整備する事業」である。

京都府や地元市町の提案があって、学研都市を含む「関西イノベーション国際戦略特区」を国際戦略総合特区の1つに指定した上で今回の法改正にこぎつけたのである。

「譲与」(無償譲渡)によって「適正な対価」はハッキリしないままとなったが、さて、いくらだろうか。


BRIEFING目次へ戻る