BRIEFING.313(2013.09.12)

老朽空き家の“経済的価値”

都市の人口・世帯数の増加を背景に住宅供給が国是であった時代、それを経験した業界人は減りつつある。鉄道が延伸され、道路が敷かれ、その周辺に住宅が張り付ついて都市が膨張を続けた時代であった。しかし現在、日本は成熟期を迎え、少子高齢化が進み、今では「空き家問題」が重要な政策課題の1つである(BRIEFING.248参照)。

さて、今年は5年に一度の「住宅・土地統計調査」の年に当たり、今月中にも調査が開始されるところである。その前回(平成20年)の調査によると、全国の空き家率、総住宅数に占める空き家の割合は13.1%だという。そしてこの中には、多くの適切に管理されていない住宅があると考えられる。

そのような空き家は、倒壊の危険、犯罪の誘発、公衆衛生の低下、景観の悪化といった問題をかかえている。では、なぜ所有者がこれを早期に解体撤去しないのであろうか。

ひとつは、その費用の問題である。撤去後、何か有効活用する途があるならともかく、これといってないなら、放っておこうかとなる。

もうひとつは、住宅用地の固定資産税・都市計画税(以下固都税という)の特例(地方税法349条3の2、同法702条の3)の問題である。

市街化区域内の宅地所有者には、その価格に応じ毎年固都税が課税される。しかし、住宅用地、特に小規模住宅用地(200u以内)については、その税負担を特に軽減する必要から、課税標準額が大幅に引き下げられているのである。

たとえば、地積200u、時価20万円/u(4,000万円)の住宅用地なら、非住宅用地に 比べ、次の通り優遇されている。なお、課税上の価格は時価の70%(BRIEFING.001参照)とし、煩雑さを避けるため負担調整措置(BRIEFING.271参照)は考慮していない。

●非住宅用地
 4,000万円×70%×(固1.4%+都0.3%)=476,000円/年
●小規模住宅用地
 4,000万円×70%×(固1/6×1.4%+都1/3×0.3%)≒93,300円/年

小規模住宅用地ならおよそ2割弱、年間約38万円も安くなる。

地価の高い都心商業地域においても同様の措置があり、時価200万円/uなら年間約380万円も安くなる。

一方、建物を撤去すれば家屋の固都税はなくなる。だが古い建物なら課税標準額が低く、税額もわずかだ。床面積100uで1万円/uとすれば17,000円/年で、住宅用地の軽減効果に比べてずっと小さい。

老朽空き家の敷地であっても、住宅が建っている以上は住宅用地。更地になれば非住宅用地である。解体撤去に二の足を踏む気持ちは分からなくもない。建っているだけで大幅減税という“経済的価値”を生むのであるから。


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