BRIEFING.32(2002.5.20)

短期賃借権保護制度の改善案(2)

前回の@〜Dに続き、以下の改善案を述べる。

Eは明渡しが履行されなかった場合の損害を補填しようとするものであるが、損害額の立証が困難であろうから、適正賃料の倍額とでも法定しておけばよい。多めにしておく方が悪質な賃借人を排除しやすいだろう。適正賃料は裁判所が価格の評価と同時に評価人に評価させ、物件明細書に記載しておけば安心である。但し相手が悪質であれば、請求はできても実際にそれを取れるのかという問題が残る。

Fは、猶予期間経過後に残されたすべての物を買受人の所有物と見なすというものである。買受人に処分費用を持たせる一方、金目の物があればもらっておきなさいということである。金目の物は滅多にないであろうが、処分した後に「大事な物があったはずだ」と言って現れる人を排除することができる。物品を残置して夜逃げしているテナントの処理に有効である。リースのOA機器等は、猶予期間内には業者が気づくはずである。

さて、A〜Fはいわば、買受人と対抗力のない占有者との明渡しに関する合意内容をあらかじめ法定したものと言える。これと異なる合意を当事者間ですることを妨げる必要はない。たとえば、賃借人が、きれいにして即時明渡すから6ヶ月分の賃料相当額を下さいという申入れをし、これに対して買受人が、いやいや4ヶ月分なら出しましょうという回答をして合意に至ればそれもよし、1銭も出しませんのでどうぞ6ヶ月間居て下さい、と拒否することも可能である。

そして、このしくみについて、十分に衆知させる努力義務を国に課し、賃貸借の媒介に係る宅建業法上の重要事項説明の際には、抵当権の存在のみならず、それが実行された場合の説明をも課す。

また新法・旧法の抵当権・賃借権が混在することの煩雑さを避けるため、既存の契約にも適用すべきである。

この改善案は、どちらかを有利にしようというものではなく、両者間のルールを明確化し、双方の不安、煩わしさ、交渉期間等を少なくするものである。そしてこの「6ヶ月ルール」は妥当な調整と考えるがいかがであろうか。


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