BRIEFING.324(2014.01.24)
中古ビルの想定と取引利回りの見立て
同等の賃料収益を上げている2つの中古賃貸ビルがあるとする。維持管理修繕等に要する必要諸経費等も概ね同じとする。そうすると償却前純収益(キャッシュフロー(CF))に具現化される現下の「使用価値」は、両ビルとも同じと言うことができる。
しかし、このビルの価格を査定する場合、その収益があと何年維持できるか、その後はどうなるのか、という時間軸を意識した立体的観点からの検討が欠かせない。そこで重要となるのが、現下のCFと、価格とを関連づける「還元利回り」である。その査定には十分な経験が必要である。
床面積2,500u、有効率80%、稼働率95%、賃料3,000円/月u、というAB2つのビルがあったとする。年間の必要諸経費等は賃料収入の25%とする。そうすると両ビルの年間CFは下表@の通り計算される。
そしてAビルは築30年で、あと20年ほど使えると見られる。Bビルは築40年で、あと10年ほどしか使えないと想定する。
そうすると両ビルのこれから得られるCF単純合計は下表Aの通りとなる。なお、ともに最後の3年間は、稼働率が75、55、35%と下がり、賃料も2,700、2,400、2,100円/月uと下がると想定し、必要諸経費等は最終年まで同額とした。Bは毎年のCFを現在価値(ここでは年5%で割引いた)に直して合計したものである。
ビル | @ | A | B | C | D |
A(残20) | 51.3 | 919 | 597 | 151 | 748 |
B(残10) | 51.3 | 405 | 328 | 246 | 574 |
さらに、残存耐用年数満了時に敷地を4億円(建物取壊し費用、仲介手数料等控除後)で売却するとし、その現在価値Cも加算するとDの通りとなる。これはすなわちDCF法による収益価格である。
では、直接還元法を採用する場合、今のCFを、一体いくらの還元利回り(償却前)で割り引けばよいであろうか。DCF法の結論と一致する利回りは・・・。
答えは次の通りである。
Aビル 51.3百万円/年÷748百万円≒6.9%
Bビル 51.3百万円/年÷574百万円≒8.9%
では、年間総収益に対する還元利回り、いわゆる取引利回り(粗利回り、グロス利回り)はどれくらいであろうか。答えは次の通り。あなたの見立てはどうだったであろうか。
Aビル 68.4百万円/年÷748百万円≒ 9.1%
Bビル 68.4百万円/年÷574百万円≒11.9%