BRIEFING.336(2014.06.10)

賃貸人の修繕義務と空家の有効活用

賃貸住宅の賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負っている(民法第606条)。国交省が作成した「賃貸住宅契約書」でも「甲は、乙が本物件を使用するために必要な修繕を行わなければならない。」(第9条)とし、すべての修繕(乙の故意過失により必要になったものを除き)を甲の負担で行うよう定めている。

しかし、契約によって賃貸人がこれらの修繕義務を負わない旨を定めることも可能である。実際に、蛍光灯の球が切れた、エアコンのフィルターが埃だらけになって効きが悪くなった、といった清掃や消耗品の交換で対処できるものは賃借人の負担と定めているのが一般的であるし、クロスのはがれ、畳の擦り切れ、障子の破れについても、賃貸人は修繕義務を負わないとしている場合が多く見受けられる。

民法の規定は任意規定であり、こうしたことは、賃貸借契約によって取り決めておけば、それが有効となるのである。しかし、消費者契約法や民法の解釈で、雨漏りや躯体に関することは、特約によっても賃貸人の修繕義務は逃れられないと解されている。

ところで近年、空家問題がクローズアップされ、公費による除却が検討される一方、その有効活用の途も検討されている。

その1つは、国交省が公表した「個人住宅の賃貸流通の促進に関する検討会報告書」の「借主負担DIY型」賃貸借である。賃貸人が修繕義務を負わない代わりに賃料は低廉。賃借人は必要な修繕をしなければならない反面、好きにリフォームしてよい。

これまでなら、賃貸人が高い修繕費を出して修繕して人に貸し、その後も窓が固いの排水が悪いのと言われ、賃貸人は心身共に疲れ果て「こんなことなら空家のまま放っておいた方が・・・」となるケースも多く、かくして空家が増加してきたのである。

防犯・防災・衛生・景観等の点で厄介者だった空家もDIY型で有効活用が進むのではないだろうか。

しかし、DIY型でも「躯体や雨漏り等の住宅の根幹部分は貸主の修繕義務」という姿勢を崩していない。どうせなら、これらについても賃貸人の修繕義務なしをOKとしてはどうだろう。雨漏りのする古民家、柱の傾いた長屋等も、賃借人の創意工夫でしゃれたカフェや住まいに生まれ変わるやも知れぬ。法改正が必要ならすればよい。

朽廃寸前でも、定期借家なら、固定資産税プラス少しの賃料で貸したい家主、借りたい店子はいるのではないだろうか。賃借人(消費者)保護は、反面で市場の縮小を招く。「躯体も借主負担DIY型」でより豊かな賃貸借市場が生まれるのではないか。


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