BRIEFING.343(2014.08.25)

土砂災害警戒区域と特別警戒区域

日本の治山治水は、明治29〜30年の「治水三法」(河川法、森林法、砂防法)により推進されてきたが、その後、砂防に関する新たな課題に対応すべく、地すべり等防止法(昭和33年)、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年)が作られた。この2つに従来の砂防法を含めた3法は「砂防三法」と言われている。

類似の法律として他に宅地造成等規制法(昭和36年)があるが、これは規制の対象を宅地及び宅地になろうとしている土地に限定している点で他と異なる。

加えて平成12年には、土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(土砂災害防止法)が制定されている。同法では、土砂災害警戒区域と土砂災害特別警戒区域とが指定され、前者では危険の周知、警戒避難体制の整備が行われ、後者においては特定の開発行為に対する許可制、建築物の構造規制等がある。さらに特別警戒区域では、既存建築物の移転等の勧告が行われる場合もあり、その場合には移転支援(低利融資等)も用意されている。

「砂防三法」がハード重視とすれば、こちらはソフト重視と言うことができる。

さて、8月豪雨は広島市安佐南区八木地区他に多大な被害を及ぼしたが、被害のあった部分に、土砂災害警戒区域・特別警戒区域の指定がほとんどなかった点が問題となっている。

一方、その指定の基礎となる「土砂災害危険個所」は、八木地区だけでも多数指摘されており、今回の土砂災害の多くは正にその部分で発生したものであった。

広島県が公開している「土砂災害危険個所」の地図を見ると、いくつもの「土石流危険渓流」と、その下に続く「被害が想定される地域」が図示されている。それらは阿武山の南東斜面を駆け下り、JR可部線・国道54号に向かって扇形に広がっている。

新聞報道によると、これらの部分は、警戒区域・特別警戒区域に指定される見込みであったが、財政難、人手不足に加え、地元の理解が得られるかどうか(地価が下がるおそれがある)という懸念があって遅れていたという。

しかし、危険な物を危険と指摘するに躊躇は要らぬ。市街化区域・市街化調整区域のような、人為的・政治的線引き(この場合には地元の理解が重要だが)ではない。客観的判断のみでよい。そもそも、指定されたから危険になるのではなく、もともと危険なのだ。それを周知し日頃の警戒に生かせば、逆に危険は減少する。地価についても同様だ。

また、警戒区域の境界線のあちらとこちらで危険性に大差はない。一方、警戒区域の中でも危険渓流近くと遠くとで危険性の差は大きい。つまり、危険性の程度は区域の内外で徐々に変化してゆくものであり、各宅地の価格形成に微妙に程度の異なる影響を及ぼすと考えられる。そしてこのことは各宅地が市場からの選択を受ける際、個別的に価格に織り込まれると考えられる。


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