BRIEFING.344(2014.09.12)

面的・時間的連続評価と「変動率査定法」

不動産鑑定評価において、不動産の価格は、原価法、収益還元法、取引事例比較法等の、原則として複数の手法によって求められる。そして、これらから求められたそれぞれの価格(試算価格と言う)を調整して鑑定評価額が決定される。

しかし、鑑定評価額に誤差があるのは否めない。仮に2人の不動産鑑定士が同一時点の同一の不動産を鑑定評価しても、若干の相違が生じるのが普通である。物によっては相当な相違が生じるが、基本的にはどちらも適正と言わざるを得ない。

だからと言って、面的・時間的連続性をもって多くの特定の不動産について行われる評価の結果が、誤差によって凸凹するようでは困る。たとえば、公示価格(1月1日)や基準地価格(7月1日)の場合である(BRIEFING.277)参照。

これらの場合、周辺地域とのバランスや、前年からのトレンドを乱すノイズのようなものを排除する必要があろう。

公示価格や基準地価格は、土地の取引価格に指標を与える等、適正な地価の形成に寄与することを目的としているから、毎年の地価動向を正しく指し示さなければなるまい。

そこでこれらの不動産鑑定評価書には前年価格と対前年変動率を記すこととされており、前年価格を意識するよう配慮がなされていると思われる。

さらに実務上は「意識する」どころではなく「変動率査定法」とでも言うべき手法が採用されていると言ってもよい。つまり、まず前年価格を所与とし、それに適正な変動率を乗じて本年の価格を求めるというのである。この価格を、冒頭に述べた不動産鑑定評価の手法による試算価格で検証するというのが実態ではなかろうか。

もちろん「変動率査定法」など、不動産鑑定評価基準には存在せず、実務上も非公式な「目安」を得るためのものとの認識である。不動産鑑定評価の各手法に、前年価格は一切関与しない(参考資料とし得る場合がある)し、そもそも通常の不動産鑑定評価に、前年価格など存在しないのである。

「変動率査定法」の弱みは、変動率査定の過程が定量的にうまく説明できないことである。

また、主観に左右されること、思い込みや恣意性の介在も心配される。

しかし面的バランス、時間的トレンドを調整するため、一定の有用性が見い出され実務で活用されていることもまた事実である。日陰に置かれている「変動率査定法」、これを日の当たる所へ置いてはどうか。


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