BRIEFING.347(2014.10.06)

求めても意味がない試算価格

不動産の価格を求める鑑定評価の手法には、原価法、収益還元法、取引事例比較法等がある。これらの手法について、平成26年11月1日施行の新・不動産鑑定評価基準では「複数の鑑定評価の手法を適用すべき」(旧基準では「三方式を併用すべき」)とし、さらに「複数の鑑定評価の手法の適用が困難な場合において・・・」と、場合によっては1手法のみの適用も容認(この点は旧基準でも同様)している。

さて、場合によっては適用しない手法とは、次のような場合及び手法である。

(1)土地についての原価法
原価法は、対象不動産の再調達原価を求めるところから始まる手法である。ここで言う再調達とは、売りに出ている土地を購入するという意味ではなく、対象不動産である土地を作るとうい意味である。

しかし、例外的な場合(山林・農地の造成または公有水面の埋立てにより完成して間もない宅地の場合)を除き土地の再調達原価は把握困難で、原価法の適用はできないという訳である。

(2)一戸建住宅についての収益還元法
収益還元法は、その不動産からの実際の(または見込める)純収益を還元利回りで還元して求められる手法である。しかし、一戸建住宅にいくらの賃料が見込めるだろうか。

適用できない理由としては、一戸建住宅の賃料相場が存在しないからと言える。仮に実際に賃貸されていても、親族間とか、転勤の間の留守番代わりにといった賃貸が多く、賃貸市場で形成された賃料というものは見出しにくい。

上記2例は、それぞれ再調達原価が把握できないから、または賃貸相場が存在しないから「適用困難」というのが不適用の理由である。

しかし、適用できなくもない。既存宅地であっても、それと同等の宅地を、山林の取得・造成から再調達することは想定できるだろう。また、一戸建住宅も賃料次第では借手がいるだろう。どちらの場合も(精度はともかく)試算価格を求めることができるはずだ。

だが、今日、いずれも一般的な想定ではない。このように、現実的でない想定を前提に価格を試算してみても意味がない(逆にそれが一般的なら意味がある)。

上記2例を仮に試算してみるとどうだろう。前者は大変に高額(誰も取得しない)となり、後者は大変に低額(誰も譲渡しない)となるだろう。

そうすると上記2例は「適用困難」というよりも「適用が無意味」と言うべきかも知れない。不動産鑑定評価は、鑑定評価の主体が市場に成り代わって価格を導き出す作業である。だから市場参加者が考えもしないことは想定しても無意味なのである。


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