BRIEFING.357(2015.01.22)

日照権と日影規制−太陽光パネルの普及を踏まえて

工業地域、商業地域に指定されている地域に日照権はない。業界関係者にもこのような誤解が見られる。これらの地域に日影規制(建築基準法第56条の2)がないのは確かであるが、日照権(判例等による)はこれとは別のものである。

日照権は私法上の権利、日影規制は公法上の規制と言うことができる。

そして、日照権の認められる程度、日陰を受忍すべき程度は、加害者側の建物が日影規制を遵守しているか否かと強く関係して判断されるため、冒頭の誤解もやむを得ぬところである。

しかし、日影規制が建築物の形態のみを規制するのに対し、日照権は樹木による日照の侵害をも問題とする点で、両者の違いは明確である。

日照権についての判断は、具体的には判例の積み重ねに寄るものと考えられる。

たとえば、工業地域でそれが否定され易い理由としては「工業地域なのだから十分な日照がないのは我慢しなさい(受忍限度内)。そもそも住むのに適した場所じゃあないのだから・・・」といった感じか。その判断指針は、当該地域に住環境がどの程度期待されるか、にあると思われる。

ところが、近年の太陽光パネルの普及は、その状況に変化をもたらしている。

「店の屋根にせっかく太陽光パネルを付けたのに、隣にマンションが・・・」「工場内の遊休地に太陽光パネルを敷いたのに南側に大型倉庫が・・・」

いずれも日影規制のない地域でその他の公法上の規制もクリアしている。これまでの日照権についての判断なら、受忍限度内とされやすいケースであろう。

太陽光パネルは、再生可能エネルギーの固定価格買取制度もあって普及が進んでいる。しかし工事費も含めれば高価な物であり、その投資回収には早くて10年程度が見込まれる。しかも、目論見通りに日が当たらなければそうはいかない。

しかし、住環境を守る目的の日照権を、このような場面で持ち出すのはどうなのだろうか。

今後の判例等を見守りたい。


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