BRIEFING.358(2015.02.12)

借上げ公営住宅の20年問題

阪神・淡路大震災(平成7年1月)から20年が経過し、神戸市他では、借上げ公営住宅の期間満了が問題となっている。

震災で家を失った被災者の方々の多くは仮設住宅を追われ、借上げ公営住宅へ移り住んだが、その期間満了が近づいてきたという訳である。住人の多くは高齢者である上、明渡し

請求の有効性に疑問があるケースも多いという。

借上げ公営住宅とは、民間等の住宅を借上げて公営住宅として市が必要な人に転貸するという、平成8年の公営住宅法改正で導入された制度である。従来「直接建設方式」のみであったところ、新たなメニューが加わったのである。

そして「入居者を決定した時は、当該入居者に対し、当該公営住宅の借上げの期間満了時に当該公営住宅を明け渡さなければならない旨を通知しなければならない。」(同法25条2項)とされ、「期間が満了するとき」には「明け渡しを請求することができる。」(同法32条1項)。神戸市等はこの期間(20年間)満了に伴い明け渡しを求めているのである。論点は概ね次の通り。

@一部の「借上げ公営住宅」は公営住宅法改正前のものであり、これらについては借地借家法によって規律されるべきところ、正当事由がなく明け渡しを求めることはできない。

A施行後の「借上げ公営住宅」であっても一部には期間満了時の明け渡し義務の通知がなかったため、明け渡しを求めることはできない。

法整備が間に合わぬまま「借上げ公営住宅」を導入し、法改正後も手続きが杜撰であったことは、行政の不備と言わねばなるまい。しかし当時の混乱した状況を考えれば同情すべき点もある。市の財政上の問題もあろう。一方で、現にそこに住んでおられる方の状況も重視しなければならない。

そして、もうひとつ配慮すべきは、20年後に返ってくると信じて住宅を貸した家主の立場である。返してくれなくてもかまわない、むしろ継続して借りて欲しいという家主がいることも確かだ。しかし、不足する公営住宅の状況を慮って半ば奉仕の気持ちで貸した人もあろう。その気持ちを裏切っては、来るべき次の大災害時に、協力してくれる家主はいなくなる。

このことは、福島の原発事故に伴う汚染土壌仮置き場についても同様である。「3年程度」のはずが、それでは済まなくなった。各市町村は地主に「お願いするしかない」状態だと言う。

誠に悩ましい問題である。高度な政治判断が求められる。


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