BRIEFING.36(2002.8.22)

自動増額特約のある場合の最終合意時点(3)

前回(2)では「最終合意時点」を契約締結時点と理解すべきだとの判断を示したが、貸主の側に立てば、自動増額特約期間満了時の賃料が基本で、それまでは特に減額してやっていたのだと考えることもできる。最後の増額をしてやっと本来の賃料になったというわけだ。とすればその次の改定はそれを基本にと考えることになる。しかし、そんなに先の賃料を契約締結時の経済情勢等を背景に決定するというのは不合理である。合意に際しての協議は当該時点の経済情勢等を背景に行われる必要があろう。その協議が最後に行われたのは契約締結時である。

では、借主が貸主に泣きついて、自動増額時に協議に応じてもらった場合はどうであろう。この場合でも、結局特約通りの結果に落ち着いたというのであれば新たな合意があったとは言えまい。では、4%の増額のところ、2%にまけてもらったという場合はどうであろう。これも特約の拘束を前提とした合意にすぎないから否定すべきであろう。

そこで、将来のこととは言え合意は合意として尊重する一方、その合意があった時点はあくまでも本当に合意した時点(当初の合意時点)と考え、期間中にその合意の修正があったとしても、その合意の基礎はやはり当初の合意にあるのであるから、その場合でも最終合意時点は当初の合意時点と考える、というのはどうであろう。

そして具体的には次の通り手法の適用を行ってはどうだろう。最終合意時点の認定に一貫性がないとも思えるが、最終合意時点に実行されたことではなく、決定されたことを重視する、という意味で一貫している。

<差額配分法>
増額後の最後の賃料を従前賃料とする。なぜならその賃料になることは契約時から決定していたのだから。
<利回り法>
契約当初の利回りを従前利回りとする。なぜなら将来の利回りは契約時には決定していなかったのだから。
<スライド法>
契約当初の純賃料を従前賃料とする。なぜなら将来の純賃料は契約時には決定していなかったのだから。

これは鑑定評価の実務において、実際におこりつつある問題である。今回は触れなかったが、合意してから新築工事に着手する場合には合意と契約始期とのあいだに大きな時間差が生じるという問題はどうか。また自動増額特約(または減額しない旨の特約)そのものが有効か否かという大きな問題もある。これらとからめ、重要な論点としてさらなる議論を深める必要がありそうだ。


BRIEFING目次へ戻る