BRIEFING.369(2015.05.25)

評価は下げても価値は下げるな

相続税法の改正(平成27年1月1日相続分から施行)で、相続税の納税義務者が増加することは間違いない。基礎控除が大きく下げられるからである。それを見越してか、消費増税前には、賃貸住宅の着工が急増している。その節税のからくりについては、釈迦に説法、ここでは触れない。

考えたいのは、更地に賃貸マンションを建てると、なぜかように税法上の評価が下がるしくみが容認されているかということである。

ある形態の財産に限って、税法上の評価と実質的な価値とが大きく異なることを認めているとすれば、課税の公平という観点からも、また中立という観点(自然な不動産のあり方を歪め、延いては社会の構造を不経済なものに導く)からも由々しき問題である。

だが、賃貸マンション(貸家及びその敷地)の税法上の評価は、実質的な価値に比べ本当に低いのだろうか。逆に我々がそれを過大評価しているということはないだろうか。それは、節税対策で税法上の評価とともに、実質的な価値まで下げているかも知れないということである。評価を下げて価値は維持し(できれば上げ)なければ意味がない。

実質的価値まで下がる理由としては次の様なことが考えられる。所有する更地に現金で賃貸マンションを新築した場合を想定する。

(1)そもそも価格(更地価格+新築費用)に見合う賃料の取れる地域は少ない。
(2)インフレに賃料の上昇がついて行かない(継続賃料の上方硬直性)。
(3)人口減に加え既存空家・空室が市場に供給され、空室率上昇、賃料下落は不可避。

さて、どうだろう。悲観的過ぎるだろうか。都心は“まだ”大丈夫としても地方はどうだ。ガラガラのアパートが目立ってはいまいか。主なき郵便受けにチラシが突っ込まれたまま、仲介業者の広告ばかりが目立つエントランス・・・。

土地の固資・都計税は小規模住宅用地の特例で安いとは言え、建物の維持管理費、修繕費、固資・都計税、損害保険料、仲介手数料、広告料・・・意外と経費がかかる。

確かに、@更地が貸家建付地になり、A現金が貸家に変わることによる評価減は大きい。しかし多くの地域(特に住宅地域)では更地の価値は自己使用を前提として把握されるから@によって土地はその持つ有用性を十分に発揮できなくなる。またAによって流動性が大きく損なわれる。その結果実質的価値も下落することが見込まれる。

賃貸マンションによる評価の圧縮、それは実は圧縮ではなく、それこそが妥当な評価なのかも知れない。

もちろん条件によっては、この節税策によって実質的価値を維持し(または上昇させ)つつ評価のみ下げられる例は多い。実際、都心の賃貸ビルならこれで評価を下げつつ価値を上げる例も見受けられる。だが両方下がってしまう、あるいは評価以上に実質的価値が下がってしまうという例も案外多いのかも知れない。


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