BRIEFING.390(2016.03.31)

事情補正の補正率査定主義と相場逆算主義

不動産鑑定評価において選択される取引事例等は、4つの要件を備えていることが必要である。その2番目として「取引等の事情が正常なものと認められるものであること又は正常なものに補正することができるものであること」が求められている。

そして「取引事例等に係る取引等が特殊な事情を含み、これが当該取引価格等に係る価格等に影響を及ぼしているときは適切に補正しなければならない」とされている。この補正は事情補正と呼ばれる。

不動産鑑定評価において、事情補正が必要な取引事例を選択することは、なるべく避けるべきと考えられている。しかし正常な取引事例が乏しい場合には、やむを得ず、事情補正が必要(かつ可能)な取引事例が選択されることになる。

だが、可能か否かの線引きは主観的・流動的だ。正常な事例が乏しければ、多少補正困難な事例も「補正可能」と判断する。非常に乏しければ、大変に補正困難な事例も「補正可能」と判断することとなる。

さて、事情補正の方法について「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」は「取引が行われた市場における客観的な価格水準等を考慮して適切に補正を」と述べているが、実務上、その方法は次の2つに大別されよう。

@補正率査定主義・・事情の内容を精査して補正率を査定。
A相場逆算主義・・・・正常な取引価格を査定して率を逆算。

言うまでもなく合理性は@にある。しかし事情の内容が明らかな場合は少なく、明らかになったとしてもそれを率に換算するのは事実上不可能である。結局は相場を見据えたヤマカン頼みとなり、実質的にはAとあまり変わらない。

Aは求めるべき結論を先に決めてから過程を後付けするもので合理性はない。前述の「留意事項」はAを支持しているようにも読めることから、実務上Aが多いと思われるが、データ偽装とも取られかねない危険性がある。

結局、@は不可能、Aは合理性なしだ。そこで今後はBの立場を取るべきである。

B非正常事例排除主義・・・事情のある事例を排除または無視。

つまり前述の2番目の要件の後半「正常なものに補正することができるもの」(すなわち事情補正が必要なもの)を選択しない、または選択しても比準価格には考慮しないことである。根拠のない補正をする必要はない。結果として採用される事例が少なくなることは容認すべきだ。

真実を追究する者の態度はBではないか。Aは受け入れがたいはずである。また@のように不可能を強いることがあってはならない。


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