BRIEFING.394(2016.05.10)

『伝承』される非常識を見直せ!

「測定された値は使われず、代わりに根拠のない値が検査機関に提出され」
「都合の良いデータを恣意的に抽出し」
「目標の燃費に合わせて机上の計算で値が割り出され」
「部署で『伝承』されてきた」

以上は自動車の燃費データ不正に関する新聞、テレビでの報道の抜粋である。不動産鑑定評価においても疑われかねない問題であり、改めて襟を正す必要がある。

不動産鑑定評価の価格を求める手法のひとつ、取引事例比較法においては、収集されたいくつかのデータ(取引事例)の中から、適切なものを選択するという作業が欠かせない。

特殊な事情を含み、相場を乖離した価格での取引も相当数見られるからである。それを無作為に利用すれば、求められる結果は、誰しも違和感を抱くものとなり妥当でない。

そのようなデータは、排除する必要があり、もし適正なものに補正可能であれば補正して利用することとなる。しかし排除すべきか否かの線引きはあいまいで、補正可能かどうかの判断、またその補正の程度も主観に頼りがちとなる。

そこで「目標」に合わせた「恣意的」な選択と補正が行われる可能性が疑われることとなる。もちろん、説明のできる選択と補正をしているはずであるから、その疑いは晴らさねばならない。が、十分な説明ができるか否かは怪しい場合も多いと思われる。

今回の燃費データ不正事件では、「部署で『伝承』されてきた」というところに問題意識の希薄さを感じることができる。それは昨年の基礎杭のデータ偽装にも共通することである。

先輩方がやってきのだから問題ないだろう。この世界はこんなもんなのか・・・。誰しもそのような境遇に放り込まれれば、それに馴染んでしまうおそれがある。他業界から見れば、あってはならないはずのことでも、容認してしまう空気に満ちているのである。

それを抵抗なく受け入れることが、その世界の登竜門となっているかも知れない。

不動産鑑定業界という「部署」に不合理な『伝承』はないだろうか。世間では認めがたい非常識が『伝承』されてはいないだろうか。

他業界からの人の出入りが少ない世界である。他業界から口を挟みにくい世界でもある。それだけに、これまでの『伝承』を常に見直してゆく気持ちが必要である。


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