BRIEFING.395(2016.05.16)

同一需給圏のジレンマ

不動産鑑定評価における価格を求める手法のひとつに取引事例比較法がある。この手法の適用に必要な取引事例は原則として「近隣地域又は同一需給圏内の類似地域に存する不動産に係るもののうちから選択するもの」とされている。

同一需給圏とは「対象不動産と代替関係が成立して、その価格の形成について相互に影響を及ぼすような関係にある他の不動産の存する圏域」である。そして「不動産の種類、性格及び規模に応じた需要者の選好性によってその地域的範囲を異にする」ものである。

それは、ある種の不動産について、通常、どのような人が、どの範囲(圏域)でそれを捜すか、を想像してみると理解できる。

(1)中規模一戸建住宅用地の場合
サラリーマンが、同一鉄道沿線、同一市町村またはその隣接市町村内といった範囲で探すだろう。たとえ環境が類似しているからといって、日本各地の大都市郊外を比較して捜すということは考えにくい。

(2)賃貸用事務所ビルの場合
賃貸用事務所ビルなら、不動産会社や個人の富裕層が、東京、大阪といった1つの都市圏で探すだろう。あるいは日本全国、全世界かも知れない。「日本の事務所ビルは割安感があって買いだ」と言うのは、世界の事務所ビルが「価格の形成について相互に影響を及ぼすような関係にある」ことを示唆している。

(3)農家住宅用地の場合
その集落内の人がその集落内で探す場合が多い。極めて狭い範囲だ。

これらの同一需給圏の広さは(3)<(1)<(2)となる。そして、取引事例比較法において採用する取引事例はそれぞれその範囲内から選択しなければならない。

しかし(3)の場合、その収集範囲が限られることから事例が少なく、手法の適用に支障をきたす。そこでやむを得ず、周辺集落、周辺市町村、さらには周辺都府県にまで範囲を広げて類似の不動産の取引事例を収集せねばならない。本来、同一需給圏は狭いのに、事例収集の範囲は逆に広くしないと評価不能というジレンマを抱えている。

逆に(2)の場合、同一需給圏は広いのに、事例が1つの都市圏で相当数収集できるため、日本全国あるいは世界の中でのその不動産の位置づけを見落としがちとなる。

さらには、株や債権、石油や貴金属とも「代替関係が成立して、その価格の形成について相互に影響を及ぼすような関係にある」とすれば、それらの価格動向にも注意を払わねばならない。


BRIEFING目次へ戻る