BRIEFING.398(2016.06.14)

立地の良否と建物価格

土地と建物からなる不動産の売買価格は、通常、一体の総額で協議され、決定後に必要に応じてその内訳が定められるのが一般的である。内訳を契約書に記載せず、両当事者がそれぞれに「合理的に」(都合良く?)判断する場合もある。

このような不動産価格を土地建物に分割する決定的な方法は、今のところ存在せず、国税庁としてもいくつかの例を挙げる(国税庁タックスアンサーNO.6301)に留めている。

さて、総額を土地建物に分割するに際しては、建物価格が立地の良否に左右されるだろうか、という問題に直面する。否定派・肯定派の主な言い分は次の通り。

●立地非関与説(否定派)
@同じ建物ならどこに建てても価格は同じはず。1億円で建てた建物が竣工した瞬間に、敷地によって1億1千万円になったり9千万円になったりしたらおかしい。

A1億円の土地に1億円でビルを建て3億円で売れたとすると、超過の1億円は土地の潜在的価値であり、もともと土地が2億円であったと理解すべき。

●立地関与説(肯定派)
@都心と工業地域とに建てられた全く同じ事務所ビル。想定される賃料の差(もちろん後者が安い)は地価の差のみでは説明できない。

A同じ土地に全く同じ一戸建住宅を、リビング南向きと北向きとに建てた場合を想定する。両者の建物価格の差(もちろん後者が安い)は建物に起因すると考えられる。

B繁華街の店舗ビルや事務所ビルが、地価と建築費からは説明できないほど高く取引されるケースがある。ミニ開発の新築一戸建住宅でも見られる。このような場合、建物を建築費以上に評価すべきである。

ところで、更地の収益価格を求める際の一般的な手法、土地残余法では、想定した土地建物に帰属する純収益から、建物投資額に見合う純収益を控除し、残りを全て土地に帰属する純収益として収益価格を求める。これは一見、立地非関与説の立場である。しかしこの手法は、土地の最有効使用を想定することが前提とされている。

これを踏まえて両派の主張を再吟味すると・・・。

立地非関与説の@は、どちらの敷地も最有効使用なら首肯すべき主張である。またAについては、土地の1億円が最有効使用前提でなかったと見ればこの主張も首肯できる。

立地関与説の@は不動産と地域との適合、Aは土地建物の均衡の問題で、敷地の最有効使用の程度が建物価格に影響すると言うべきだ。Bは立地非関与説のAと同じで、従来考えられていた最有効使用が誤りで、今回、真の最有効使用が実現された結果と考えられる。同等の地域で同等の開発を行えば同じ結果になるはずで、さすれば地価を見直すべきだ。

立地は建物価格に直接は関与しないが、土地の最有効使用に影響を与え、それが建物価格に関与(最有効使用でなければ下方修正)すると言うことができる。


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