BRIEFING.403(2016.07.28)

越境容認覚書の対抗力

不動産の売却に際し、売主の建物や構築物の一部(例えば樋や基礎)が隣地に越境している事実が判明することは珍しくない。買主はこれによる後日のトラブルを嫌い、購入を見合わせるかも知れない。

しかしその程度が軽微であり、かつ隣地所有者が売主に対してその越境を当面容認する旨の約束した文書がある場合、買主は安心してその不動産を購入することができる。

その文書の多くは、乙は自己の建物等の一部が甲の土地に越境していることを認め、甲は乙が建物等を建替えるまでは現状の越境を無償で認め、かつ、甲乙が土地を売却する際にはその約束を新たな所有者に承継する、という趣旨のもので、確認書や覚書といった形を採ることが多い。

本来、越境されている土地の所有者は、所有権に基づく妨害排除請求権によりその是正を求めることができるはずである。しかし、その越境よる特段の損害が発生しておらず、その是正に多大な費用がいる場合にまで、その是正を求めるのは権利の濫用とも考えられる。

そこで、前述の覚書等で解決するのが合理的・経済的で大人の対応と言える。

ところが、このような覚書があるにもかかわらず、売買の後、隣地所有者が買主(新所有者)に越境の即時是正を求めてきたらどうだろう。

「前所有者に対しては容認したが新所有者に対しては認めていないし、承継の約束も前所有者との間の約束にすぎない」という訳である。確かに、このような約束は債権契約であるから、物権である所有権に対抗できないのだ。

逆に越境されている土地が売買された場合も同様だ。

「前所有者は容認していたらしいが私はいやだ。前所有者の約束を承継するかどうかは私の勝手だ」と言われればやはり対抗できない。

だが、それは業界の慣習に反し非常識だというのが大方の考え方である。

実務上、このような確認書や覚書は多く作成されている。そしてその多くで、新所有者は前所有者の債権・債務を当たり前のこととして承継していると思われる。

確かに「対抗できない」というのも筋が通っている。そうすると是正を迫られた方は、改めて「権利の濫用だ」と反論しなければならないのだろうか。

越境は、されている方もしている方も厭なものだ。穏便に解決したい。


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