BRIEFING.428(2017.04.24)

不動産の収益価格と空室率の見立て

賃貸ビル、賃貸マンション等の収益目的の不動産の鑑定評価額はその収益価格を重視して決定される。収益価格を求める手法は収益還元法であり、その主なものとして、@直接還元法とADCF法がある。

これらの手法における重要なポイントの1つに、賃料と空室率の見立てがある。

実際に賃貸されているビルの場合、実際の賃料に基づく収益を基礎とするのが原則であるが、@の場合、実際の稼働状況が長期的に標準的な状態か否かを判定し、そうでなければ実際の稼働状況(賃料水準及び空室率)を修正する必要があり、Aの場合においても、初年度は実際通りとしても、分析期間における稼働状況を査定しなければならない。

では、実際の空室率が高い場合、たとえば30%だったとすると、年間の収益をどのように査定すべきだろうか。考え方として次の3つが考えられる。

<@実際主義>
実際の賃料水準、空室率を基礎として年間の収益を査定する。
<A標準主義>
実際の賃料水準を、近隣地域における標準的な空室率(たとえば10%程度)を達成するであろう水準にまで下方修正して年間の収益を査定する。
<B満室主義>
実際の賃料水準を、空室率0%を達成するであろう水準にまで下方修正して年間の収益を査定する。

@は、実際の空室率が、標準的な空室率と大きく変わらなければ受け入れられる考え方であるが、現状(空室率30%)を維持してゆくことが最有効使用とは考えられず、首肯し難い。

Aは、一般的かつ妥当な考え方ではあるが、空室率10%とするためにどの程度の下方修正を想定すべきかの判断が難しい。そこに恣意性が介在せぬよう気を配らねばならない。

BもAと同様である上、テナントの入れ替え等に伴うやむを得ぬ空室も生ずるため、0%は現実的でなく好ましくない。但し、100%稼働と想定しつつ、10%の空室損失相当額を計上して相殺する場合は別である(実質的にAと同じである)。

そうすると、上記3つのうちAの標準主義が優れていることに異論はなかろう。

だが、前述の通り、賃料水準の想定が曲者だ。地域の水準に、そのビルの個別性(建物の品等)を勘案せねばならない。こちらが下げれば隣も下げるかも知れない。また、耐震性が低い、エレベーターがない、共用トイレが男女一緒・・・このような状態では安くしてもなかなか埋まらない。大規模改修するか。建替えに備えて定期建物賃貸借として格安で賃貸するか・・・。

不動産鑑定評価は、市場に成り代わることが大事であるが、個別性の高い不動産についてはビル・オーナーに成り代わって苦悩することも大事である。


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