BRIEFING.430(2017.05.10)

取引事例比較法における地域要因の分割と大局観

不動産の価格を求める鑑定評価の手法の1つに取引事例比較法がある。対象不動産を、取引価格の判明しているいくつかの取引事例と比較して、対象不動産の価格を求める手法である。

その比較の方法としては、BRIEFING.429でも述べたように、直接比準と間接比準とがあり、一見煩雑と思える間接比準を誰もが頭の中で行っていることから、それが一般に採用されているところである。不動産鑑定評価の本質が、市場に成り代わること、市場参加者の立場に立つことであるとすれば、正しい選択である。

しかし、具体的に比較する地域要因(地域の価格水準に影響を及ぼす価格形成要因)についてはどうだろう。比較する項目の分け方は、市場参加者の目線に立ったものだろうか。

不動産鑑定評価基準第3章第2節には、14個(住宅地域の場合)の地域要因が列挙されている。また、昭和50年1月20日付国土庁土地局地価調査課長通達別表を基にした「土地価格比準表(地価調査研究会編著)」では地域要因を、街路、交通接近、環境、行政、その他の5つに分け、さらにそれを細分化している。そして地価公示標準地の鑑定評価では地域要因をこの5要因に分けることとされ、その他の鑑定評価においてもこれに倣うのが通常である。

だが、市場参加者が実際にこのように地域要因を分けて比較しているかどうかは疑わしい。

たとえば、下表のAB両地域の比較に当たって、接面街路幅員(街路条件)と、基準容積率(行政的条件)とを分けて頭の中で分けて考えているだろうか。さらにこれらと居住環境(環境要因)とを整理して考えられるだろうか。

指定容積 街路幅員 基準容積
A地域 100% 6m 100%
B地域 200% 4m 160%

また、最寄り駅からバス20分の優良な住宅地域と、最寄り駅から徒歩5分の劣悪な住宅地域とを比較する場合、利便性(交通・接近条件)と居住環境(環境条件)を切り離して考えているだろうか。

市場に成り代わること、市場参加者の立場に立つことにこだわれば、このような地域要因の分割考慮をやめ、一種の大局観で価格の格差を判断すべきかも知れない。直感、ヤマカン、どんぶり勘定との批判もあるが「木を見て森を見ず」ではまずい。鑑定評価の現場でも、実は直感が先行し、その裏付けとして地域要因比較が行われるという印象がなくもない。

不動産鑑定評価には、市場に成り代わることにこだわる考え方と、そうではなく、一般の市場参加者が気付かない点まで検討すべきとの考え方がある。前者は「市場代替原理主義」、後者は「専門的視点主義」と呼ぶことができる。

大局観を持ちつつ細部にも目を配る。森も木も見るのが理想だろう。


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